排尿障害を引き起こす「前立腺肥大症」は、中高年男性と切っても切れない病気だ。ぼうこうの下にある前立腺が年齢とともに大きくなり、尿道を圧迫する。治療は、まず薬物療法だが、進行すると尿の通り道を確保するための手術が必要になる。近年は体への負担が少ない方法が相次いで保険適用となり、選択肢が広がった。(植木創太)

◆夜は1時間おきに尿意

 愛知県日進市の男性(76)は数年前から、前立腺肥大に伴う排尿障害に悩んできた。夜は1時間おきに尿意を催し、慢性的な睡眠不足に。昨春には尿が出せなくなり、ぼうこう内に尿が満ちているのに出ない「尿閉」の状況になった。投薬も効果は薄く、尿道に細い管を挿して排尿することになったため、8月に愛知医科大病院(同県長久手市)で手術に踏み切った。  受けたのは、内視鏡を通じて尿道に光ファイバーを入れ、前立腺に「ツリウムレーザー」と呼ばれる特殊な光を照射する「前立腺蒸散術」。尿道をふさいでいる肥大した前立腺をレーザーで熱して気化させたことで、術後は尿閉が解消。1カ月で術後の血尿も治まり、「今は出したいときにおしっこへ行ける。この普通がありがたい」と喜ぶ。  前立腺は精液を作る男性特有の臓器。加齢による男性ホルモンの低下などによって大きくなり、50歳で3割、80歳で9割に肥大が見られる。「前立腺肥大症」と診断されるのは、その中でも肥大と排尿症状があり、治療が必要な場合。厚生労働省の患者調査(2020年)によると患者数は108万人とされている。  悪化すると、排尿回数が増え、尿が意図せず漏れ出たり尿閉になったりするほか、血尿などの合併症になることも。腎機能の悪化や細菌感染のリスクを高め、生活の質は著しく下がる。

◆体の負担軽減

患者の尿道から内視鏡を入れ、高出力のレーザーで肥大した前立腺を気化させる梶川さん(左)=愛知県長久手市の愛知医科大病院で

 軽症の場合、前立腺の緊張を解き圧迫を弱めたり、前立腺を小さくしたりする薬で尿を出やすくする保存療法が一般的だ。ただ、服用し続ける必要がある上、肥大がさらに進むと、患部を除くための手術が避けられない。一方で、体への負担や出血を心配し、手術をためらう人は少なくない。  だが、手術などの外科的な治療法の進歩は近年著しい。同大泌尿器科の梶川圭史さん(40)によると、ツリウムレーザーによる治療はその代表格。狙った部位だけを安定的に気化できるため、内視鏡から入れた電気メスで切除する標準的な手法に比べて、術中の出血量が格段に少ない。基本の入院日数も4~5日と短く、「循環器系の持病で血液をさらさらにする薬を服用中の場合も施術でき、治療効果も高い」という。肥大した体積が大きい場合はレーザーでくりぬく「核出術」でも活用できる。尿路結石のほか、全摘が基本の尿管腫瘍の治療にも応用が期待されているという。  ほかにも、前立腺へ器具を埋め込み組織を押さえ付けることで尿道を広げる「つり上げ術(ウロリフト)」や、高温の水蒸気を当てて組織を壊して体に吸収させて縮める「水蒸気治療(レジューム)」が、相次いで公的医療保険の適用となった。いずれも局所麻酔での内視鏡手術で出血の危険も少ないため、長時間手術に耐える体力がない高齢者にも施せる。肥大具合や症状により適さないケースもあるが、性機能も維持しやすい。  梶川さんは言う。「効果的な薬に加え、負担の少ない手術法もそろってきていて、早期治療の効果が高い病気。気になる人は、年のせいとせず、専門医にぜひ相談してほしい」 

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