今年もまた花粉症の季節がやって来た。この時期のアレルゲンはほとんどがスギ。日本人の4割が症状を訴える国民病だ。労働の生産性の低下まで招いているとして、昨年には政府が対策を打ち出す事態になった。今年の見通しや予防法、有力な治療法など最新の状況を専門家に聞いた。(大森雅弥)

◆飛び始めは早まる

 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会の「鼻アレルギー診療ガイドライン」作成委員で日本医科大多摩永山病院・病院教授の後藤穣(みのる)さん(58)=写真=によると、飛び始めは2月初めと早かったが、大量飛散だった昨年より量が少ないとみられる地域が多いという。「患者があふれるという事態はなさそう」。ただ、昨年並みか多いと予想される地域もあるので地元の情報をチェックしてほしい。  同ガイドライン2020年版は7項目の対策を挙げている=表。後藤さんは「きちんと守ればかなり防げるし、治療の場合でもこれが大前提になる」と指摘する。  花粉情報のチェックで後藤さんが勧めるのは、地元の保健所や耳鼻咽喉科の医師たちが地道に続けている観測情報だ。きめが細かく信頼性が高いという。例えば、三重県では4カ所の医療機関が「三重県花粉情報」というサイトを運営、五つの地区ごとに飛散予報を発表。東京都では都保健医療局がヒノキの花粉を含む飛散量をほぼ毎日公表する。こうした情報がない県もあり、後藤さんは「公的機関が正確な情報を出すべきだ」と指摘する。  マスク、眼鏡も効果が高い。しかし、意外と実行されていないのが実情。特に、コンタクトレンズを使う人が眼鏡に切り替えられていないことが多い。「ゴーグルではない普通の眼鏡で十分なので着けてほしい」

◆飲み薬と点鼻薬を

 治療薬は眠気が少ないタイプも増え、選べるようになってきた。最も効果的なのは毎日飲み薬と点鼻薬を併用すること。しかし、点鼻薬は症状がひどいときだけなど誤った使い方をする人が後を絶たない。  正しく使っても1、2割の人は症状が改善しない。そうした重症患者にとって頼れる味方となるのが、19年にスギ花粉症にも保険適用となった抗体治療薬「オマリズマブ(商品名・ゾレア)」だ。現在文案がネットで公開中のガイドライン改訂版も重症者への使用を強く推奨する。  ただし処方できる患者には厳しい要件があり、実施する医療機関も限られてくる。また、飲み薬ではなく皮下注射。値段も高く、3割の自己負担で月に5千~7万円という情報もある。

◆舌下療法は長期に

 根本的にアレルギー反応を起こさないようにする治療として注目されるのが、花粉成分の入った薬で体を慣らす「舌下免疫療法」だ。症状が軽い人でも受けられ、効果が高い上、値段も普通の飲み薬程度。政府の対策でも普及に向けた薬の増産が盛り込まれた。  問題は治療が長期にわたること。舌の下に薬を含む形での服用を毎日、3年から5年続けなければならない。加えて、薬を作るためには混ざり気のないスギ花粉を確保しなければならないが、政府は一方でスギ人工林の伐採を進めることにしており、増産が可能か懸念される。  後藤さんは「政府が対策に本腰を入れるのはありがたいが、継続性が重要だ。学会も協力して対策を練っていきたい」と話す。


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