障害者権利条約に基づく国連の日本政府への審査が2年前に行われ、精神障害者などの強制入院の撤廃が勧告された。今も精神科病院での患者虐待がなくならない日本で、精神医療の改革はどこまで進んできたのか。この半世紀の改革の歴史を用語集の形でまとめた『精神医療改革事典』(批評社)の監修者の一人で、岐阜県立希望が丘こども医療福祉センターの精神科医・高岡健さん(70)=写真=に聞いた。(大森雅弥) -日本の精神医療の現状は? 利用者にとって使い勝手が悪い体制だ。必要のない入院が今なお多い。長期入院の人に地域で生活してもらうという方向性は出されているが、現実には入院患者は減っていない。患者が地域で生きていくための支援が不足しているためだ。国際的には入院治療が極めて少なくなっている中、先進国では遅れているといっていい。 -日本の精神医療はどのように進んできたのか? 明治以前は患者の私宅監置、いわゆる座敷牢(ざしきろう)が一般的だった。明治に入った1900年に精神病者監護法ができ、私宅監置を法律に位置付けた。やがて病院に患者を収容する方向性が打ち出され、19年に精神病院法が施行、二つの法律が共存した。50年に2法は廃止され精神衛生法ができるが、家族の求めによる医療保護入院は監護法が、公的機関による強制入院(措置入院)は病院法が、それぞれルーツになっており本質的な変化はなかった。 -改革の動きは? 始まりは60年代。当時のケネディ米大統領が63年に精神医療の脱施設化を打ち出した。ところが日本では翌年、精神障害者によるライシャワー駐日米国大使襲撃事件が発生。精神障害者の管理強化が進んでしまう。これを機に始まった反対運動が、69年以降の改革の研究・実践につながった。精神疾患が患者個人だけの問題ではなく、環境や時代の問題でもあるという視点が導入され、患者を地域で受け入れる活動も始まった。 84年に発覚した宇都宮病院事件など病院での患者虐待はなくならず、国際的な批判も高まった。87年に成立した精神保健法では患者の意思による任意入院を新設。95年の精神保健福祉法は福祉の概念を導入した。 -改革が進んでいるように見える。 進んではきた。2017年に打ち出された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」、いわゆる「にも包括」は評価できる政策だ。問題はどう実現するか。収容主義が根強く残っている。入院は精神科救急の場合の短期間に絞り、その分の予算を地域ケアに振り向けるべきだ。厚生労働省は精神医療の在り方の検討を民間のシンクタンクに任せがち。もっと当事者団体や支援するNPOの意見を反映させてほしい。 -地域移行には地元の協力が欠かせない。理解を求める努力も必要では。 精神障害者の犯罪率が一般の人より圧倒的に低いことが分かっている。動機が分かりにくいことで過剰な報道や市民の反応があるのは残念だ。報道の皆さんには、自殺報道での配慮と同様、毎回犯罪率の低さを付け加えてもらえるとありがたい。また、精神障害者がどう暮らしているかを知ってもらうことにも取り組みたい。グループホームの開設に当たっては行政が関与すると理解を得られやすいことが分かっている。行政の応援も必要だ。
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