心臓のカテーテル手術で、麻酔科医(右)を補助する臨床工学技士の丹羽さん=名古屋市立大病院提供

 勤務医の残業時間が規制される「医師の働き方改革」が来月から本格化する。医療の質を保ちながら改革する上で注目されるのが、医師の業務を専門的な技能を持つ他の医療職へ移管するタスクシフトだ。看護師や臨床工学技士など各医療職にはさらなる専門性を習得できる資格もあるが、取得には時間や費用が必要。医療機関側の支援も大切になる。(酒井博章、植木創太)  2月上旬、名古屋市立大病院の手術室。臨床工学技士の丹羽敦さん(37)が麻酔科医の補助に入っていた。医師の指示に基づき、心臓カテーテル手術で必要な器具を準備し、麻酔科医の静脈へのカテーテル挿入を手際良く介助した。祖父江和哉麻酔科部長(55)は「医師の負担軽減につながっている上、安全な医療提供でも重要な働きをしてもらっている」と感謝する。

◆専門資格を取得

 臨床工学技士は、人工呼吸器など多くの機器の操作と保守管理を担う。近年は高度な医療ロボットなども普及し、現場ではさらに専門的な知識が求められるようになった。丹羽さんは自ら各学会の有料講習会などに通い、「体外循環技術認定士」や「呼吸療法認定士」などの認定資格を取得。「学生時代に学んだ知識が古くなった。チーム医療を担う一員として勉強は必須」と強調する。  名古屋市千種区の東名古屋画像診断クリニックの診療放射線技師、山室修さん(53)も、働きながら大学院に通い、MRIに詳しい「上級磁気共鳴専門技術者」の資格を取った。「業務の質は高まった」と山室さん。ただ、資格手当などは付いていない。学費などもかかり、当時は休日と夜間に論文の執筆や発表準備に追われた。「自分が学ぶことが患者のためになるとの思いで取った」と振り返る。  専門看護師、認定・専門薬剤師…。医学教育に詳しい愛知医科大特任教授の宮田靖志さん(61)によると、近年は医療の高度化に伴い、各医療職で分野に特化した資格認定が拡大している。タスクシフトやチーム医療が推し進められる中、さらに重要視されている。  一方、専門資格の有無と病院が受け取る診療報酬とが結び付いていない場合、医療現場では時間や費用面でサポートしづらく、資格の取得は“自己研さん”という名の個人の努力に頼りがちだ。また、資格のある人材の引き抜き競争も激化。育てた人材が流出することを恐れ、医療機関側が資格を取らせることに及び腰になることもあるという。  こうした課題に対応しようと、名市大病院では1月、勤務する医療職の資格取得とスキルアップを助ける新組織「医療人連携・育成センター」を発足させた。これまでは薬剤師なら薬剤部、看護師なら看護部など部局ごとに考えていた人材育成計画を統括。どんな資格取得を促すか、目標値を設けて主導するのが狙いだ。

◆勤務扱いで勉強

 資格取得のため、職場の環境や制度も整える予定。例えば、医師の指示を基に問診などの診療行為が補助できる「診療看護師」の場合、従来は休職して大学院で学んだが、今後は勤務扱いで在学できるよう配慮する。この資格を持ち、同病院で働く谷下沢隆太郎さん(31)は「休職とならず、金銭面などで病院側からサポートしてもらえれば、勉強に集中できる。資格取得を迷う人の背中を押してくれる」と期待。安井孝周センター長(53)は「より良い医療サービスを提供できるように病院全体で環境を整えたい」と話す。  「医療従事者の技術向上は患者が受けるサービスの質に直結する」と愛知医科大の宮田特任教授。適切に支援しなければ、患者にも医療従事者にも選ばれなくなり、病院の経営が立ちゆかなくなると指摘する。「稼ぐための運営だけでなく、医療従事者がやりがいを見いだせる雰囲気や環境を整えられるか。今後、医療機関の組織力が問われる」(「医療シン時代」は終わります)


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