米ハーバード大学は、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)のカギを探すための大規模な調査を85年以上にわたり続けている。それによると、幸せな老後を迎えられるかどうかは、現役時代からの人間関係の良しあしによって規定されるという。一方、「慢性的な孤独」は幸福度を下げるだけでなく、健康状態の悪化や死亡率の上昇も招く結果になったとしている。

 ハーバード大が1938年から続ける「成人発達研究」。大学卒業生を含め、富裕層や貧困層、子どもから大人まで、生活状況や健康データを継続的に集め、約10年ごとに対面で幸福度などをヒアリングしてきた。対象者は現在、約2600人に上る。

 現在、研究を担うロバート・ウォールディンガー教授(精神医学)によると、良い人間関係は心臓病や糖尿病、関節炎の発症を抑制する半面、「慢性的な孤独感」は1年あたりの死亡率を26%も高める結果になったという。

 教授が研究成果をまとめた「グッド・ライフ」(辰巳出版)では、追跡調査したハーバード大卒業生2人の好対照なケースを紹介している。

 ジョンは大学卒業後、シカゴ大学院をトップクラスの成績で卒業し、弁護士に。コンサルタント業務を手がけ、「自己の内なる欲求を満たす」と出世を重視するようになり、成功して高い報酬を得るようになった。

 一方、レオはジャーナリストになるのが夢だったが、母親が病気になり、介護のために故郷に戻り、高校教師になった。

 2人が55歳になった時、ハーバード大は「人生は喜びより苦しみの方が多い」かどうかを質問した。すると、ジョン「はい」、レオは「いいえ」と答えた

 ジョンの最初の結婚はうまくいかず、子どもたちとも疎遠に。質問票には「人とつながれず悲しい」という思いを書いていた。その後、62歳で再婚するが、愛のない結婚生活だという思いを抱えたまま、亡くなった。

 一方、レオは熱烈な恋に落ち、結婚。教師を続け、年収は一般的だが、妻と4人の娘と一緒に幸せな生活を生涯にわたって送ったという。

 ハーバード大の研究チームは、幸福の二大予測因子として、パートナーなど他者と過ごす「時間」と「質」を挙げた。長い人生での幸福は、収入の有無や成功と関係なく、人間関係によって育まれると結論づけた。

 ウォールディンガー教授は、幸せな老後を迎えるためのミドルの過ごし方について「仕事だけでなく、家族との人間関係の再構築などいろんなものに関心を向けることが大事だ」と助言している。(編集委員 森下香枝)

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