白血病などの難病と闘う子どもたちに未来を――。神戸市の神戸大大学院医学研究科の研究室が、人体細胞の8割以上を占める血液細胞の源「造血幹細胞」を使った治療法の研究を進めている。5年以内に治療薬を実用化することなどを目指し、クラウドファンディング(CF)による協力を呼びかけている。
「この子にできる治療は、もっとほかにないんですか」
「こんな治療法があると論文で見たのですが、うちの子には使えないでしょうか」
神戸大医学部付属病院の小児科医・山本暢之さん(43)、井上翔太郎さん(34)のもとには、難病の子どもを抱える親たちが訪れる。
遺伝子の異常で特定のたんぱく質をつくれなくなって免疫力が下がる「先天性免疫不全症」の男児のことを、山本さんはよく覚えている。骨髄移植をする必要があったが、ドナーが見つからず、感染症を繰り返して亡くなったという。「治療の選択肢さえあれば救える命もあるが、それがない子どももいる」
井上さんは「子どもたちは、成長や発達を含めた『自分の未来』をかけて治療に臨む。その未来を守るには、診療をしながら治療法の開発が必要だと思った」と話す。
神戸大大学院造血幹細胞医療創成学研究室では、こうした難病の子どもの治療法を研究する医師や研究者らが約20人いる。その中心メンバーが特命教授の宮西正憲さん(51)。産婦人科医でありながら小児科分野の研究をする「異色の研究者」だ。山本さんや井上さんらも小児科医として参加している。
産科医として病院などで勤務した後、基礎研究に携わるため米スタンフォード大へ留学し、造血幹細胞の研究にであった。「産科医は『お元気で』と子どもらを送り出す。けれど小児科には難病を抱えた子どももやってくる。子どもたちや小児科医に何か恩返しがしたくなった」
帰国後、理化学研究所(神戸市)などを経て現職となり、造血幹細胞の研究を続けている。
宮西さんの研究室では、「臍帯血(さいたいけつ)」に多く含まれる造血幹細胞を増やす技術や、遺伝子治療薬の研究などをしている。
臍帯血は、妊娠中の母親と赤ちゃんを結ぶへその緒と、胎盤の中に含まれる血液のこと。白血病など血液の病気で正常な血液をつくれなくなった子どもには、臍帯血に含まれる造血幹細胞を移植することで治療できる可能性がある。
臍帯血は、出産時に希望者から公的臍帯血バンクへ無償提供されるが、現在は出生率が年々低下して提供機会が減少している。提供を受けても細胞数などが基準に満たず、廃棄されるケースは少なくない。
そこで、宮西さんらはこれまで廃棄されていた臍帯血も、細胞を増やすことで移植治療に使える技術を研究している。
また、数百万個以上におよぶ血液細胞の情報を深く読み取ることができる独自の細胞解析システムを開発した。「難病の子どもたちにとっては、病気の原因の特定や新しい治療法の開発につながる」と宮西さん。しかし、関連機器の維持費が高額で、1回使うと約10万円かかる。いまは研究費でまかなっているが、限界があるという。
宮西さんらはこのシステムをさらに活用して、遺伝子治療薬の開発につなげようとしている。対象は先天性免疫不全症の子どもら。現在は治療法として骨髄移植があるが、ドナーが見つからなかったり、副作用や合併症を発症したりするおそれがある。「遺伝子治療薬なら、そうしたリスクをゼロに近づけられる」
これらの研究について、研究室は5年以内の実用化を目指している。研究を加速させるため、基礎研究費や機器の維持費などを支援してもらうCFを5月に始めた。第1目標の500万円を達成し、現在は1千万円を目標に、7月15日まで寄付を募っている。CFサイト「レディーフォー」から、「宮西正憲」で検索すると概要がわかる。
宮西さんは「子どもの未来に光をあてれば、社会全体が幸せになる。みなさんに研究のことを知ってもらい、協力もしてもらえたら」と話す。問い合わせは宮西研究室(hscadmin@med.kobe-u.ac.jp)または神戸大企画部基金グループ(078・803・5414)へ。(島脇健史)
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