米国の農場の乳牛で感染が広がる高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)が、従来のH5N1よりヒトへの感染効率が高まっている可能性があることを東京大などの研究チームが確認した。8日付の英科学誌ネイチャーに発表した(https://www.nature.com/articles/s41586-024-07766-6)。
H5N1は野生や飼育下の鳥で広がり、高い病原性を持つ。感染した鳥などと接触したヒトへの感染がまれに起き、致死率は50%程度とされる。
一方、2020年後半に欧州で見つかったH5N1の亜型ウイルスは、鳥だけでなく、ネコやイヌの哺乳動物への感染も相次ぐ。南米ではアシカやアザラシの大量死が報告されている。
今年3月以降、米国の乳牛にも広がり、これまでに12州で感染が確認された。いずれも軽い症状だったが、今月3日までに農場労働者4人の感染も報告されている。
従来のH5N1は、ヒトで流行する季節性インフルエンザのH1N1と、ヒトの細胞に感染する際に結合する細胞表面の糖鎖が少し異なる。しかし、研究チームが感染した乳牛のミルクから採った亜型のH5N1を調べると、H1N1が結合する糖鎖にも結合できることが判明した。
この糖鎖は、ヒトの鼻やのどなどの上気道の細胞に多い。研究チームは「牛由来のH5N1は、ヒトの上気道の細胞に結合する能力を持つ可能性がある」と報告した。
また、イタチ科のフェレットを使った実験で、H1N1より効率は低いが、飛沫(ひまつ)感染することも確認した。牛由来のH5N1に感染したフェレットがいるケージの隣に、感染していないフェレットを入れたケージを置くと、実験した4匹のうち1匹で、ウイルスに対する抗体量が上昇し、感染していたことが確認された。
ただ、この4匹から感染性のウイルスは検出されなかった。H1N1の実験では、4匹いずれも飛沫感染した。
こうした結果から、研究チームは「季節性インフルよりも効率は低いが、牛由来のH5N1は飛沫感染する」と結論づけた。
さらに、哺乳類に対する病原性も解析した。
マウスの鼻から感染させ、3日目と6日目に臓器中のウイルス量を測ると、従来のH5N1と同じく、脳や乳腺、筋肉などの全身の臓器でウイルスが増殖していた。フェレットでも全身の臓器で増殖した。
一方、季節性インフルエンザのH1N1に感染させたマウスでは、呼吸器だけでウイルスが増殖していた。
研究チームの河岡義裕・東大新世代感染症センター機構長は今回の結果をふまえ、「効率は悪いが、哺乳動物での伝播(でんぱ)性がある。農場での感染対策を強め、乳牛での流行を早く止める必要がある」と話した。
今回の研究は、東大や国立国際医療研究センター、米ウィスコンシン大などのチームが共同で実施した。(林義則)
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