北海道猟友会が、自治体からのヒグマ駆除要請に難色を示しています。背景にあるのは、自治体や警察との連携が不十分で、猟友会に負担や責任を押し付けている現実です。
クマと人の「距離の近さ」が問題になる中、“駆除要請拒否”の姿勢をにじませる猟友会の真意を見つめます。
■駆除体制が維持できなくなるおそれ
今年4月、北海道根室市の林道で、軽トラックがヒグマに襲われました。ワイパーが折れ曲がりフロントガラスが割れるなど車体は損傷しましたが、運転していた男性にけがはありませんでした。
また去年11月には、北海道南部の大千軒岳で、男子大学生がクマに襲われて死亡。同じころ別のグループも襲われ、消防士2人が負傷しました。いずれも同じクマによる被害とみられています。
北海道東部の標茶町や厚岸町では、数年前から放牧中の牛が少なくとも66頭が襲われました。ハンターの追跡や罠を幾度となくかわしてきたことから「忍者グマ」と呼ばれた「OSO18(オソ)」。去年8月、そのオソが駆除されていたことが判明しましたが、それまで道東周辺ではオソの出没におびえる日々を過ごしました。
北海道で相次ぐクマの出没。去年道内では、ヒグマの目撃通報が4000件を超え、過去最多となりました。
こうしたクマの出没を受けて、駆除に向かうのは、ほとんどの場合、自治体から要請を受けた地元の猟友会です。
そのため、もし猟友会が要請を拒否した場合、駆除を担う体制が崩壊するおそれがあります。
■駆除要請に難色を示す背景に高裁判決「発砲は違法」
今、北海道猟友会は、自治体からのヒグマ駆除要請に難色を示しています。異例ともいえる今回の検討の背景には、猟友会砂川支部の池上治男さん75歳が提訴した裁判があります。
北海道猟友会砂川支部 池上治男さん(75)
「警察官も市の職員もいたんだよな。ここは住宅密集地域じゃないから(発砲の)許可も得てるし、どうしても撃ってほしいということで駆除しろと」
2018年、砂川市の要請を受けてクマを駆除した池上さんは、その後「銃弾が住宅に届くおそれがあった」として北海道公安委員会に猟銃所持の許可を取り消されました。
池上さんは「クマの背後には斜面があり、銃弾が住民に当たる可能性はなかった」として処分の取り消しを求め提訴。
一審の判決は、池上さんの訴えが認められましたが、先月、札幌高裁は「クマを貫通した銃弾が跳ね返り建物などに到達する恐れがあった」として発砲は違法だったと指摘。一審判決を取り消し、池上さんは逆転敗訴となりました。
北海道猟友会砂川支部 池上治男さん
「安全を確保した状態でない限り発砲しない。そこに人がいるところに撃つわけないでしょ。そんなことを平気で判決理由に書くところは理解できない」
■「ハンターがすべての責任を負うことになる」
クマが出没し住民に危害が及ぶと判断された場合、多くの自治体は猟友会のハンターにクマの駆除を要請しているのが実態です。
北海道猟友会は、砂川市でのヒグマ駆除の発砲をめぐる判決を念頭に、体制が整備されていない自治体からの駆除要請を拒否することを検討しています。
北海道猟友会の堀江篤会長は、今回の踏み込んだ検討に至った理由について「ハンターがすべての責任を負うこと」への危機感を挙げています。
■猟銃を持たず地元をパトロール
池上さんは、毎朝市内を巡回し、学校や住宅地の近くにクマの痕跡がないか確認しています。池上さんが暮す空知地方は、クマの出没が多い地域ですが、いまなお猟銃の携帯が許されていません。池上さんは、判決を不服として最高裁に上告しています。
北海道猟友会砂川支部 池上治男さん
「地域住民の人は理解してくれているし、実際、砂川市でもまだヒグマが出ている。この状況でダメだというのならもう全然どこでも撃てないよね」
■鈴木知事は環境省に陳情へ
これを受け鈴木知事は18日、猟友会の堀江会長と環境省に出向き、地域の実情を伝える予定です。
鈴木直道知事
「会長も是非行きたいんだと。直接いろんな悩みがあるので法律を提案していく状況もある中で、お話したいということなんで是非出来るだけ早くそれをやりたいと思ってます」
■駆除の在り方を見直すターニングポイントになるか
鈴木知事は、市町村によって猟友会への対応や連携にバラつきが生じていることについて、道が振興局ごとにある「連絡協議会」を活用して関係者間の連携強化を図るとしています。
その後、北海道猟友会は「市町村からのヒグマ駆除要請については、誠実に対処することとしていて、現時点でその方針に変わりがない」とコメントを発表していますが、負担や責任を民間に押し付けた枠組みはそのままです。
駆除の在り方を見直すターニングポイントになるのか。猟友会は、年内に会議を開いて、正式な方針を決定するとしています。
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