旧暦にあわせて行われる、沖縄・糸満の伝統行事「糸満ハーレー」が、6月10日、盛大に開催された。「動物虐待ではないか」との議論を呼んだ「アヒル取り競争」も例年通り実施された。予想外のかたちで注目されることになった今年の「糸満ハーレー」を振り返る。
「神事に始まり神事に終わる」糸満ハーレー
海人のまち、糸満は、旧暦の伝統行事を重んじ、糸満ハーレーは「神事に始まり、神事に終わる」と言われる。旧暦5月4日の朝、拝所の山巓毛(さんてぃんもー)には、神に祈りを捧げる「ノロ」と、ハーレーに参加する地域の代表者たちが集まり御願(うがん)をする。
御願が済むと、山巓毛からの旗の合図で、ハーレー行事がスタート。幕開けを飾る「御願バーレー」は、糸満の古い3つの集落を代表する漕ぎ手たち(ハーレーシンカ、と呼ばれる)が速さを競う、船漕ぎ行事だ。
競技を終えた漕ぎ手たちは、糸満の氏神様「白銀堂」を詣で、勝利を報告し、今年の航海安全、豊漁などを祈願する。
▽御願ハーレーの勝利報告をする青年
「神事があって生活ができているし、仕事も、漁業もできていると思っているので、その報告と感謝の気持ちを伝えに来ることは大事だなと思いました」
海人の生活と信仰に深いつながりをもっている糸満ハーレー。行事の中心を担うのが、糸満独特の競技。
そのうちの1つ「クンヌカセー」は、レースの途中で、わざと船を転覆させる。
泳ぎながら船を元通りにし、再び乗り込んで競漕するというもので、海での操船技術が問われるユニークな競技だ。
♪アガイスーブの歌「首里天加奈志 百々とぅまでぃ末までぃヨー」
行事のクライマックスは、長老の海人による厳かなハーレー歌で始まる「アガイスーブ」。距離は、ほかのレースの倍以上となる2150メートルを漕ぐ。集落の誇りをかけた力強い櫂さばきと白熱したレース展開に、会場からは、大きな声援が送られた。いくつかの行事のうち、今年の糸満ハーレーでは、関係者が対応を迫られた行事があった。
▽実行委員会
「これ、文書ですね。注意事項が書いていて、これ写真付きです。取ったあとの取り扱い」
▽ハーレー関係者
「これみんな貼っておけばいいの?」
ハーレー開始前に、会場内のいたる所に掲示されていたのは、アヒル取り競争での注意点を記載したポスター。
「アヒラートゥエー」と呼ばれるアヒル取り競争はハーレー行事のひとつで、戦前から続けられてきた。港に放たれたアヒルを捕まえるもので、人間とアヒルの知恵比べが見所だ。
しかし去年、東京のNPO法人が、動物愛護法違反にあたるとして行事委員会などを刑事告発。不起訴となったが、批判の声を考慮した行事委員会が5月末、会合をひらいて協議した結果…
▽糸満ハーレー実行委員会 東恩納博 委員長
「アヒル取り競争については、今年も実施するということで、全会一致で可決しております」
全会一致で、今年も例年通り実施することを決定。伝統行事を動物虐待と受けとめられないようにするため、今回、実施あたっての取り決めを設けた。
糸満警察署と動物愛護センターに事前に文書で通知し、終了後も虐待の有無について報告し、参加者に対しては、「アヒルの扱い方について注意喚起を強化」するというものだった。また、例年実施している同意書への記入も徹底するようにした。
▽会場アナウンス
「アヒルは命あるもので、捕獲に際しては、胴体を捕獲し、首や羽をつかまないようにご協力よろしくお願いします」
そして、アヒル取り競争がいよいよスタート。今回はアヒル30羽とスイカ50個が用意された。
▽会場アナウンス
「さぁ、いよいよアヒラーが放たれました」
「人間とアヒルの知恵比べ。それにしてもアヒルの姿が見えないですね…」
行事委員会によると、虐待にあたる行動の報告はなかったという。
▽アヒルをつかまえた参加者
「うれしいです」「気を付けてとろうと思いました。傷つけないように」
▽地元の女性
「この世の中いろんな意見の方もいると思いますけど、やはりこの行事を守る方々も頑張って、きょう皆さんで楽しめてよかったのかと思いますけど」
▽高校生
「触ってみ?心臓の音がする」
▽地元の男性
「虐待してはいけないし、皆さんの意見も取り入れながら配慮しながら、虐待のないように、この伝統行事を理解してくださいねって」
▽糸満ハーレー実行委員会 東恩納博 委員長
「慎重にアヒルを傷つけることなく大切に扱うようにという指導を行った結果、無事アヒル取り競争も終えて、ほっとしております」「旧暦文化を大事にする伝統ある行事ですので後世まで大事にバトンタッチしていきたいなと思っております」
(取材:比嘉チハル)
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