「B-net山形」の齋凌矢投手(左)と金原広汰投手=山形県中山町で

 山形市の社会人野球クラブチーム「B-net山形」には、異色の「二刀流」に挑む2人の投手がいる。同じ高校、大学で学び、今春チームに加入。現在は研修医として忙しい日々を送りながら、7月の都市対抗野球本大会出場を目指し、6日に開幕する2次予選東北大会に臨む。

 見えない糸で結ばれているようだった。「お互いまだ野球が好きなんだな」。山形大医学部卒業前、金原(きんぱら)広汰さん(24)は、同級生の齋凌矢さん(24)が2023年に発足したばかりのB-netに入ることを知り、そう思ったという。

キャッチボールをする「B-net山形」の金原広汰投手=山形県中山町で2024年5月22日午後7時39分、竹内幹撮影

 金原さんは医師を目指して同大に進んだが、野球に未練があった。「東京六大学野球でプレーしていたら……」との思いがよぎったことも。卒業を控え、「レベルの高いところで試合をしたい。後悔はしたくない」と、チームへの入団を考えていた。

 二人は仙台市で生まれ、初めて一緒にプレーしたのは仙台一高の時。一塁手の齋さんはキャプテン、金原さんは投手でエースだった。「実力があり、常に自分の課題に取り組んでいる」(齋さん)、「キャプテンシーがあり、人をまとめる力がある」(金原さん)と互いを評する。認め合い、力を合わせてチームを引っ張ってきた。「杜(もり)の都の早慶戦」とも呼ばれる仙台二高との伝統の定期戦は共通の思い出だ。

 二人は山形大医学部に現役で合格し、準硬式野球部に入った。だが、肩の強さに自信があった齋さんが投手に転向したことで、関係に微妙な変化が生じた時期もあった。

守備練習をする「B-net山形」の齋凌矢投手=山形県中山町で2024年5月19日午前9時50分、竹内幹撮影

 「同じポジションになり、周囲から絶対的エースで活躍する彼と比較されるようになった。結果が出ない時は苦しみ、素直に接することができなかった」と齋さんは明かす。そんな中、「自分は自分。人と比較するのはやめよう」と自身を見つめ直した。トレーニングや投球のメカニズムを学ぶうち、自らの成長を実感できるようになった。

 今年、二人はそろって医師国家試験に合格した。ともに整形外科医を目指す。現在、金原さんは山形大医学部付属病院、齋さんは山形県立中央病院で研修医をしながら、野球の練習を続けている。

 「くされ縁ですね」と金原さんはほほ笑む。「ライバルがいたおかげで、向上心を持つことができた。負けるつもりはない」。齋さんは「本来の力を出せれば、チームに貢献できる自信がある」と話す。

 舟田友哉監督(40)は「お互い仕事とのバランスをとりながら、充実した野球人生を歩んでほしい」と期待する。

 山形県中山町にあるB―netの練習グラウンド。平日の夕方、仕事を終えた選手たちが集まった。日が暮れると、弱い照明がともり、汗を流す選手たちを照らしていた。キャッチボールをする齋さんと金原さんの姿もあった。「自分たちの力がどこまで通用するのか、勝負してみたい。二人で東京ドームに行きたい」と意気込む。

 高校から一緒に野球を続けて約10年、お互い野球への情熱は変わらない。二人の二刀流の道は続く。【竹内幹】

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