逆境に立ち向かう姿に心が揺さぶられた。
昨年12月、中国・北京で行われたグランプリ(GP)ファイナル。三浦佳生選手がフリーの演技を終えた瞬間、その横顔に覇気が浮かんだ。
男子ショートプログラム(SP)から一夜明けた公式練習。後半戦に向け、宇野昌磨選手や鍵山優真選手、米国のイリア・マリニン選手らが姿を見せた。しかし、よく見ると6人いるはずのリンクに1人足りない。リンクサイドのドアは閉められ、時間になっても三浦選手だけ現れなかった。
翌日午前に行われたフリー当日の公式練習にも姿はなかった。スケート連盟から「胃腸炎で、大会出場は体調を見て判断する」と発表され、リンクサイドの私もさすがに落ち着かなくなってきた。
思い返してみると、三浦選手の演技を撮り始めた2022年、当時は高校2年生だった。若さと元気あふれる演技ながらも最後まで体力が続かず、スタミナ不足で壁に衝突する場面もあった。あれから1年。GPシリーズで好成績を収めたトップスケーターが集まる舞台で、成長した姿を撮りたいと思っていた。
午前の練習で姿がなかった三浦選手は、夜の競技時間に合わせてリンクに戻ってきた。ただ、歯を食いしばっているようにも見え、どこかまだ本調子ではなさそうだった。演技が始まると、着氷が乱れたものもあったが、4回転トーループやトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)からの連続ジャンプは綺麗に決めた。その姿はまさに必死だった。
開幕前、自己ベスト300点を超える4選手に注目するような声が聞こえてくる中、口にした「なめんなよ」の一言。自分の実力は理解しているけれども、何とか爪痕を残したいという思いがストレートに伝わってきた。それだけに、演じ切った姿が頼もしく、撮影していて、こみ上げるものがあった。
演技後も苦しそうだった。体調不良の中、自分を奮い立たせてリンクに立ったのだろう。レンズ越しに感じ取った「覇気」は意地のようにも思えた。「負けたくない」という思いを胸に、逆境を乗り越えた18歳。宇野選手が現役引退し、男子の勢力図が変化する中、その中心で活躍する姿を見たい。またひと回り大きくなった姿を撮影できる機会を心待ちにしている。【吉田航太】
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