1894(明治27)年開校の鶴丸(鹿児島)は、昨秋の高校野球の県大会で4強入りした。今春の選抜高校野球大会の21世紀枠の候補校にもなったが、選ばれなかった。もし出場していれば、99年ぶり2回目となるはずだった。
99年前。当時は鹿児島一中だった鶴丸が活躍していたころ、鹿児島県のメイン球場として、鴨池市民球場はすでに存在していた。
正式には鹿児島市鴨池公園野球場という。
鹿児島県高等学校野球史「白球に魅せられて」によると、開場は1920(大正9)年。オープン記念試合として、鹿児島一中と鹿児島二中(現・甲南高)が対戦した。九州で最も古い球場のひとつと言われる。
鹿児島電気軌道という路面電車の会社が、沿線の鴨池に野球場や動物園をつくったところから歴史は始まった。28年に鹿児島市が球場ごと買収して、鹿児島市の所管となった。
球場の記録を調べているうちに驚いたのは、西郷隆盛の孫が2人も鴨池でプレーをしていたことだ。
30(昭和5)年の南九州大会で優勝した鹿児島二中の右翼手に西郷隆正がいた。第16回の全国選手権大会で甲子園にも出場した。その数年後、もう1人の孫の西郷準(ひとし)も二中の投手、中軸打者としてプレー。進学した立教大では主将として活躍した。
第2次大戦後の47(昭和22)年、夏の甲子園で福岡・小倉中(現・小倉高)が優勝。初めて深紅の大優勝旗が関門海峡を渡った。「記念に何かできないか」と考え、九州地区で中等学校野球大会をやろうと発案したのが当時の朝日新聞西部本社運動部長の芥田武夫だった。アイデア自体には九州各県は賛同したが、食糧難の時代。自県での開催には尻込みした。
そのときに、鹿児島県中等学校野球連盟理事長で鹿児島一中教師の石原晟が「鹿児島で引き受けましょう」と言ったという。さつまいもをかき集め、会場はもちろん鴨池市民。戦時中は広い場所の多くは食糧供給のために畑になっていたが、鴨池は練兵場として使われていたためグラウンドは健在だった。
鹿児島県高野連元理事長で、現在は顧問の野村次丸(97)は大会初日に鴨池に見にいっていた。木の上に登ってまで見る人など、鈴なりの大観衆に驚いたという。
小倉中は甲子園の深紅の大優勝旗を先頭に入場行進。エース福嶋一雄(故人)の活躍で優勝した。地区大会はこの後、九州にならって、東北、関東など春と秋に全国で開かれることになった。そのスタートは鴨池だった。
70(昭和45)年、2年後の鹿児島国体に向けて、300メートルほど離れたところに県立鴨池野球場(平和リース球場)ができ、メイン球場の役を譲り渡した。
しかし、97(平成9)年夏、県立鴨池が改修中で使えないときに鴨池市民で、大逆転の名勝負が繰り広げられた。鹿児島大会決勝の鹿児島実と鹿児島玉龍との対戦だ。
鹿児島実は序盤に8点を挙げだ。先発はソフトバンクなどで主力投手にもなった杉内俊哉だった。しかし、守備の乱れもあって玉龍の大反撃に見舞われた。八回を終えて、8―11。敗退濃厚の九回表に2死一、二塁から主将の岩切信哉(44)が中前に抜ける同点打を放つ。その後も追加点を奪い、13―11で鹿児島実が優勝。甲子園に向かった。
現在は鹿児島実の野球部長を務める岩切は「狭い球場なので、外野席を開放してもお客さんが入りきらず、球場の道路をはさんだスーパーの屋上や、歩道橋の上で試合を見ていた人もいた」と思い出す。両翼93メートル、中堅120メートル、収容人員は7千人。マンションに囲まれ、こぢんまりとたたずむ。
鴨池市民にはグラウンドの「守り神」がいる。福里章(76)は89(平成元)年からおよそ36年、鴨池市民のグラウンド整備を続けている。宿泊を伴う離島の高校生が夏の大会に来たときに「雨で順延になるのが残念」という。軽石を細かく砕いた砂をまいて水を吸い込ませ、極力、試合を消化できるように心を配る。
取材に訪れた今年の3月7日、球場では、春季キャンプに鴨池を訪れていた慶大が、長崎国際大と練習試合をしていた。西武ライオンズなどで活躍した強打者の清原和博の長男・清原正吾が「4番・指名打者」で打席に入っていた。=敬称略(酒瀬川亮介)
鹿児島市鴨池公園野球場
鹿児島市鴨池2丁目。約7千人収容。鹿児島市電の鹿児島中央駅前から約20分の鴨池電停で下車。徒歩約5分。
最近10大会の全国高校野球選手権の鹿児島代表
2014年 鹿屋中央(2回戦)
15年 鹿児島実(2回戦)
16年 樟南(2回戦)
17年 神村学園(3回戦)
18年 鹿児島実(1回戦)
19年 神村学園(2回戦)
20年 新型コロナで中止
21年 樟南(2回戦)
22年 鹿児島実(2回戦)
23年 神村学園(ベスト4)
※かっこ内は全国高校野球選手権大会での成績
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