花束を手に引退会見を終える宇野昌磨
◆より自由に「最善の形を追い求める」
笑顔の引退会見だった。黒のスーツに身を包んだ宇野は、会場に流れた自らの昨年のインタビュー映像を見ると、晴れ晴れとした表情で「(当時の)彼はよくやったなと思います」と口にした。 司会者との対談形式で行われた会見の前半では、モニターに映し出された映像を振り返った。最後の公式戦となった3月の世界選手権はジャンプのミスが相次ぎ4位。その時の写真を眺め「すごく満足そうな、やりきった顔をしている」と語った。引退会見で笑顔を見せながら質問に答える宇野昌磨=14日、東京都千代田区で
5歳でフィギュアスケートに出合い、「毎日、全力で向き合ってきた」と自負する。周りから「練習の鬼」と言われるほど研さんを積んできたことが、日本勢男子初となる世界選手権連覇と、五輪2大会連続でのメダル獲得につながった。 26歳。戦える力を残しながら競技者に別れを告げる。第一線で活躍し続けて学んだことはタイトルの大切さだけではない。「成功、失敗もたくさんあった。両方等しく、僕にとっては宝物のような時間になった」。コーチ不在でどん底も経験した21年間を「結果が振るわなかった時もすごく幸せそう。結果だけじゃないんだというところも、一つ見えたのかな」と誇った。しんみりとした雰囲気は一切、見せなかった。 今後はプロスケーターの道に進む。「最善だと思うフィギュアスケートの形を追い求めていきたい」。より自由に、より楽しく。点数やルールに縛られず「心から踊るようなスケート」を氷上に描いていく。 ◇◆試合は答え合わせの場、常にレベルアップを目指す<取材ノート>
最初は聞き間違いだと思った。2022年のグランプリ(GP)シリーズ第5戦NHK杯。演技後の取材で宇野はこの大会について「練習につながる試合になっていなかった」と言った。2022年のNHK杯、男子フリーで演技する宇野昌磨=真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
取材歴の浅い記者は「試合につながる練習」と言いたかったのではと思い、哲学めいた言葉を当初は理解できなかった。その場では真意をつかめないままずっと頭に残っていた発言。真意は、その後の取材を通して垣間見ることができた。 「失敗というものも良い経験になる」という考えを大事にしていた。練習では、単にミスしないことだけを目指していない。そういった練習は、「その場しのぎを毎日やっているだけで何の問題の解決にもなっていない」と考えるからだ。 一方で「試合は、練習で100%で跳べるジャンプでも失敗する」とも語る。独特の緊張感の中、試合だからこそ犯してしまうミスを伸びしろとして捉え、その原因を分析して次の練習で改善していく。なぜ、ジャンプのミスをしたのか、とことん原因を探る。身体の動かし方の問題なのか、ジャンプに入る前のコースなのか。徹底的に見直し、完璧な跳び方を目指した。 その後の本番は練習の成果が氷の上で表現できるか、答え合わせの場でもあった。「練習より試合の方が自分の経験、レベルアップにつながる」と本番の大切さを認める。それは、大会を見据えた日ごろの鍛錬で、自分を追い込んでいたから出た言葉だ。 「練習につながる試合」と、失敗から仮説を立て検証、改善を繰り返し、自らを高め続けた。その道の先は頂点につながっていた。(蓮野亜耶) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。