東京ドーム=本社ヘリから

ボクシング 世界スーパーバンタム級4団体タイトルマッチ(6日・東京ドーム)

井上尚弥(大橋)―ルイス・ネリ(メキシコ)

 1988、90年に2回開催され、ともに5万人超を集めたとされる世界ヘビー級王者のマイク・タイソンの東京ドーム戦。その「伝説」を30年以上の時を経て再現したのは、井上尚弥の実力に他ならなかった。

 米専門誌による全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド」1位選出(2022年6月)に、史上2人目の2階級での主要4団体王座統一(23年12月)――。井上尚は強さのみで世間の耳目を集め、2階級目の4団体王座統一を果たしたマーロン・タパレス(フィリピン)戦は抽選販売に約10万件の応募があり、最高額22万円のチケットも完売した。

 所属ジムの大橋秀行会長が井上尚が4階級制覇を達成した23年7月ごろから「とりあえず(東京ドームで)いける」と手応えをつかんでいたという。世界的マッチメーカーである帝拳ジム会長の本田明彦氏も「尚弥にしかできない」と大橋会長の背中を押した。

 試合の規模は、正に破格だ。今回も22万円の最高額のチケットは早々に売れ、観客数は4万人超。タイソン戦の興行にも携わった本田氏は「ゲート(入場料)収入はタイソンの時より今回の方がすごい。日本選手絡みでは、間違いなく最大のイベントになる」。日本選手のファイトマネーは、22年にゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)と世界ミドル級王座統一戦を戦った村田諒太の推定6億円が最高額とされてきた。本田氏は井上尚がこれを超えることを示唆している。

 だからこそ、井上陣営は歴史的な試合の成立に心血を注いだ。関係者によると、過去の世界戦で薬物検査の陽性反応を示したり、体重超過したりしたネリに試合前から複数回のドーピング検査、計量を実施。さらに世界王者経験のある海外選手を「控え」として招き、万一の場合の対戦相手も準備してきた。

 当の井上尚は、ことのほか冷静だった。

 「そういった(注目される)試合こそ自分がモチベーション高く、(力を)発揮できる。自分自身に期待したい」

 有名企業がスポンサーに名を連ね、清廉なアスリートの雰囲気をまとう井上尚は、ボクシングの概念を変えた存在とも言える。だからこそ実現できた東京ドーム決戦でもある。「海外の有名選手であっても、『負けたら終わり』のボクサーにはなかなかスポンサーがつかない。それだけイメージが良い選手ということだよね」とする本田会長の評価が、全てを物語る。

 14年に世界王座を初めて手にしてから10年。不世出のボクサーが、日本を代表する巨大会場で大一番を迎える。出来過ぎのストーリーは、井上尚の実績や存在感、そして、関係者の熱意を考えれば必然の展開だった。【岩壁峻】

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