昭和後期のプロ野球に偉大な足跡を残した偉大な選手たちの功績、伝説をアナウンサー界のレジェンド・德光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や“知られざる裏話”、ライバル関係とON(王氏・長嶋氏)との関係など、昭和時代に「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”、令和の今だからこそレジェンドたちに迫る!

昭和60年、日本一に輝いた阪神タイガースの1番バッター・真弓明信氏。先頭打者ホームランは歴代2位の41本、そのうちセ・リーグで放った38本はリーグ最多記録として名を残している。昭和58年には首位打者を獲得するなど、タイガース史上最高の切り込み隊長に德光和夫が切り込んだ。

キャンプで「今年は絶対優勝できる」

徳光:
真弓さんについて、野球ファンの皆さん、特に阪神ファンの皆さんが一番知りたいのは、やはり日本一になった昭和60年の話だと思うんですが。

真弓:
僕は優勝の経験がなかった。8~9月に入ったぐらいから、ものすごく盛り上がるわけですよ。移動がまともにできないぐらい。「リーグ優勝というのはすごいことなんだな」っていうのが、じわじわと…。

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昭和60年、タイガースは、吉田義男監督のもと、21年ぶりのリーグ優勝、2リーグ制になってからは初となる日本一を勝ち取った。1番・真弓氏、3番・バース氏、4番・掛布雅之氏、5番・岡田彰布氏の4人が打率3割以上、ホームラン30本以上を記録した破壊力のある打線は「ニューダイナマイト打線」と呼ばれ、関西を中心に熱狂的な阪神ファンを歓喜の渦に巻き込んだ。この年、真弓氏はシーズンが始まる前から「今年は優勝できるかもしれない」と感じていたという。

徳光:
前の年は優勝したカープから23ゲームも離されての4位でしたよね。

真弓:
でもね、僕が1番打って、2番に弘田(澄男)さんとかがいて、3番にバース、4番に掛布、そのあとに岡田、佐野(仙好)…。「これでなんで勝たれへんの」って思ってました。確かにピッチャーが弱かったんです。でも、ピッチャーも中西(清起)とか池田(親興)とかが入ってきて、若い人がやり始めるんですよ。

真弓:
キャンプのとき、カケ(掛布)とかと一緒に酒を飲んでて、僕は言ったことがありますよ。「この時期に優勝できなかったら、もう絶対でけへん。俺は『今年は絶対優勝できる』と思ってるんだ」って。

伝説の甲子園バックスクリーン3連発

この年の4月17日、甲子園球場で行われた阪神対巨人の7回裏に阪神のクリーンアップ(3番・バース氏、4番・掛布氏、5番・岡田氏)が、巨人の槙原寛己投手から3者連続でバックスクリーンに打ち込むホームランを放った。猛打で優勝した昭和60年のタイガースを象徴するシーンとして、今なお語り継がれている。

徳光:
あの年は、4月に巨人戦で3連発がありましたよね。

真弓:
あの日、槙原はすごいボールを放ってたんですよ。僕は「絶対にこれは打てない」と思って、「今日の槙原はすごいわ。アウトコースが“真っすぐ”じゃない、“真っスラ”だよ。あれを見せられたら右バッターは打てへんやろ」って言ったぐらいです。
あのピッチャーから3連発打つんだから、「すごいな、コイツら」と思いましたよね。

徳光:
それも、全部バックスクリーンじゃないですか。

真弓:
そうなんです。そこですよ。バースがバックスクリーンに入れて、カケが入れたときは、「珍しいこともあるな」って言ってて、岡田が打ったときには、「まさか~」とか思いましたよ。
あの頃は“打って勝つ”っていうチームカラーでしたからね。「おっしゃ、今日いけるよ」っていう感じで、大騒ぎですよ。

徳光:
我々ジャイアンツファンの中では、“博愛主義者・槙原の恵みの3発”だと(笑)。

真弓:
それが最後まで響いたと…(笑)。

リーグ制覇の瞬間はセカンドのすぐ後ろに!

徳光:
リーグ優勝の瞬間は、今でも記憶に焼き付いていらっしゃると思うんですが、確かあのとき、真弓さんはライトでしたよね。

真弓:
はい。ライトです。

徳光:
でも、そのときの映像を見ると、セカンドぐらいのところまで来ていませんでしたか。

真弓:
みんな集まって胴上げとかするじゃないですか。「とにかく早く行きたい」って思って、1球ごとに体が少しずつ前に行ってました。本当にびっくりするぐらい。ボールが飛んできたらどうするんだろうなっていう…。

徳光:
延長に入って、せった試合でしたよね。

真弓:
なんかね、ボールが飛んでこないような気がしたんです。野球選手の勘っていうのは、すごいでしょ(笑)。ピッチャーゴロでしたから。

徳光:
ピッチャーゴロで助かった(笑)。

真弓:
気づいたときには、本当にセカンドのちょい後ろくらいまでいってましたよ。

翌日まで祝杯…始球式で大失敗

真弓:
優勝は初めての経験でしたからね。何をしていいか分からない。
ホテルに帰ったら、どんちゃん騒ぎして‥。みんなで「ちょっと銀座に行こうや」ってなって盛り上がるっていうのはありましたけど…。

徳光:
朝までですか。

真弓:
はい。翌日までやってました。で、その日も試合だったんですよ。僕は1番バッターだから、始球式で打席に立つ。始球式って普通は空振りしますよね。空振りするつもりで振ったんです。ところがファウルチップになった。「えっ、当たったよ、今」みたいな。

徳光:
誰が投げてたんですか。

真弓:
多分、子どもが投げてたと思います。打つつもりじゃない。空振りするつもりがたまたま…。それだけ酔ってました(笑)。

日本シリーズ…敵のスコアラーは元同部屋

日本シリーズの相手は広岡達朗監督が率いる西武ライオンズ。真弓氏にとっては古巣である太平洋クラブライオンズ、クラウンライターライオンズの後継球団だ。
阪神は4勝2敗で西武をくだし日本一に輝いた。

徳光:
下馬評では圧倒的に広岡・西武でしたよね。

真弓:
そうですよね。でも、日本シリーズには、あんまりこだわりがなかったです。「日本シリーズで優勝するのは来年でもいいか」くらいに思ってました。
ところが、リーグ優勝が決まってから日本シリーズまであまり期間もなかったので、勢いがそのままいったって感じ。こだわりも何にもなく、プレッシャーも何にもなく、日本シリーズに行った。

徳光:
古巣と戦ったことになるわけですが、そういう意味ではどうでしたか。

真弓:
日本シリーズって、相手がいつも対戦しているピッチャーではないじゃないですか。そうするとシーズンの後半ぐらいから、西武のスコアラーがタイガースの試合を見に来ているわけです。だから、バッテリーも、そのスコアラーのアドバイスを聞いてくるんですよね。
そのときの西武のチーフスコアラーが、ライオンズで一緒の部屋だった仲なんですよ。その人は、僕がスライダーを打てないっていうのが頭の中に入ってるわけです。だから、僕はもうスライダー狙いなんです。1球目からスライダーを打って2塁打ですよ。

徳光:
それは気持ちよかったでしょうね。

真弓:
気持ち良かったです。だから、出てくるピッチャー、出てくるピッチャー、こういうミーティングしてるよなというのを考えて…。

徳光:
そうか、ほかの阪神の選手には分からない推測ができたわけですね。

1カ月負傷欠場でも34本塁打

徳光:
ただ、あの年に真弓さん、大ケガをしましたよね。

真弓:
レフト前ヒットか何かで、セカンドランナーだった僕はホームに突っ込んでいったんですよ。回り込んでベースをタッチしにいったときに、脇腹にドーンとキャッチャーの肩が入って肋骨を2本折りました。

徳光:
どのぐらい戦列を離れてたんですか。

真弓:
1カ月。

徳光:
1カ月も離れたにもかかわらず、ホームランを34本打っている。打点も84。

真弓:
たまに自慢するんです。「34本って、1カ月休んだんですよ」って。みんな、「ウソでしょ」って言う。

徳光:
先頭打者ホームランも多かったですが、あれは狙ってたんですか。

真弓:
狙ってましたよ。バッターボックスでホームランを狙って悪くはないと思っているんです。
ツーストライク取られたら、ヒット狙いのカウントになる。でもファーストストライクは、やっぱりホームランになるようなボールを打ちたいじゃないですか。アウトコース低めのギリギリの球は1球目から打ちたくない。ホームラン狙っていったら、そこは打たないんです。真ん中から内側とかを狙う。
だから、僕はツーストライクまでは、ほとんどの打席でホームランを狙ってましたよ。

江川卓氏の高めのストレートを狙った

変化球よりもストレートが得意だったという真弓氏。快速球で一時代を築いた巨人の江川卓氏から12本のホームランを放っている。

徳光:
江川さんの、それこそ浮き上がってくるストレートをよく打ちましたよね。

真弓:
ジャイアンツのピッチャーから打ったのは、徳光さん、よく覚えてますよね(笑)。

徳光:
本当によく打たれた(笑)。

真弓:
ほんとに浮き上がってくるんですよ。バッティングコーチは「高めの球に手を出すな」って言うんです。そしたら、低めに目付けするじゃないですか。低めに目付けしてると、そこからピューッと上がってくるやつは振ってしまうんですよ。

真弓:
もうしょうがないから、「高めの球を打ってやろう」と。めちゃくちゃ高い球は来ないですから。ストライクゾーン、ちょっとボールになるような球。

徳光:
コントロールが良かったから。

真弓:
その球を初めから打ちにいってたんです。肩くらいのボールを打つわけですよ。普通に打ちにいったら、必ずアッパースイングになって振り遅れるんです。だから、構えたところからバットをそのまま斜めに落としていくんです。そしたら高めの球でも間に合うんですよ。

徳光:
斬るような感じですか。

江川氏の高めの速球を斬るように振って打っていたという真弓氏

真弓:
そうですね。振りながら斬るような感じです。

徳光:
それであれだけ打ったんですか。

真弓:
速くて伸びる球って、打ち方はもうそれしかないと思ってました。

(BSフジ「プロ野球レジェン堂」 24/8/13より)

【中編に続く】

「プロ野球レジェン堂」
BSフジ 毎週火曜日午後10時から放送
https://www.bsfuji.tv/legendo/

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