2軍監督の目で見た“歴史的低迷”

負けの数は球団史上ワーストの「91」、さらにチーム打率はパ・リーグ歴代最低の2割1分2厘。

“打てず、勝てず”を繰り返し、まさに記録的な低迷でリーグ最下位に沈んだ西武。黄金期直後の“強い西武”で現役時代を過ごした西口監督は、2軍監督を務める中でも1軍の戦いをチェックし、歯がゆい思いを抱えていたといいます。

さらに1軍を率いる立場になってから見えたチーム状態についても、温厚な笑顔の奥でシビアに観察していることを明かしました。

西武 西口文也 新監督
「ファーム監督として上の試合はテレビで見たり、映像で見たりもしてましたけど、私自身も“どうしたのかな”って、クエスチョンがついてる部分もありました。自分が入った当時っていうのは、練習面でももっと今まで以上に厳しさはあった。今はすぐにどうしても『時代だ』という風になってしまうので、あまり強くは言えませんが昔の方が練習の中では厳しさはかなりあったし、緊張感もありました」

厳しさと緊張感生む紅白戦

チーム再建の第一歩となった秋のキャンプ。

西口監督はこれまでに感じたチームの課題を1つ1つ改善するためにさっそく動き始めました。

打撃面の向上と厳しいペナントレースを勝ち抜くチームの環境作りに取り組みました。

その特徴がもっとも現れたのがキャンプ初日から行われた一風変わった「紅白戦」でした。

マウンド上にはピッチャーではなくピッチングマシン

肩ひじの消耗を防ぐためピッチャーではなくマシンのボールを打つ形での試合形式の練習です。野手に実戦形式の練習で経験を積ませ、試合の場面に応じたバッティングを身につけさせるのがねらいです。

あえて「紅白戦」と銘打つことで、試合同様の緊張感を持たせることも意図していました。

設定は、ストレート・スライダー・チェンジアップの3球種。バッターはどの球種が来るか分かりません。

右ピッチャー、左ピッチャー、回転数、スピードなどはその日によって設定を変え、ランナーやアウトカウントなども日ごとに変更。

「慣れ」や「マンネリ」を排除するために工夫を凝らしました。

西口監督
「毎日実践的な練習を取り入れて、考えながらやってもらわないと向上しないんじゃないか。守備も実戦的な感覚を毎日養えると思う。打って走る、走塁もそうですし、間を抜けた外野のカットのつなぎとか、フライが上がった時の声の連携とか、毎日実戦的な練習ができる」

さらにキャンプには若手も多く参加する中、プレッシャーのかかる厳しい場面でも力を発揮できるようにという意図もあります。そこには今シーズン、2軍から自信を持って送り出した選手たちが1軍の舞台で思うようなプレーが出来なかったのを目にしてきた経験が背景にあります。

西口監督
「僕は今年はファーム監督だったんで、“なんで2軍でできたことができないのか”っていうよりも、“2軍でやってきたことをそのままやってくれればよかったのに”という風に思っています。1軍のレギュラーポジションをつかむためにはやっぱりそこで結果を残さないとはいけない。選手1人1人のプレッシャーっていうのもあるとは思いますが、かと言ってそこであんまりプレッシャーを感じすぎて自分の力を出せないと1軍に残っていけない。普段通りの野球をできるかどうか。自分もそうでしたけどもね。やっぱり2軍でやってきたことをそのまま同じような形でできるか、出せるかどうかが大事になってくる」

さらに“勝利への執念”を植え付けるため、負けたチームは帰りの宿舎までのバスに乗れないことにしました。

球場から宿舎までは、坂道を含めておよそ3キロ。

練習後の体には少しこたえる距離です。

「ケースバッティング」ではなくあえて「紅白戦」という設定にしたのは選手にたとえキャンプであっても“勝負にこだわって欲しい”という思いもありました。

児玉亮涼 選手
「絶対に勝ってやろうってなります次は」

柘植世那 選手
「勝ちたい気持ちは強くなりますね」

レギュラーは“源田壮亮のみ”

緊張感や勝負へのこだわりを求めるだけでなく、西口監督は前向きに取り組むためのモチベーションとなることばをかけることを忘れませんでした。

キャンプ前には、レギュラーの白紙を宣言し、成長次第でだれでもポジションを手にすることができると伝えました。

西口監督
「今のところレギュラーはショートの源田しか考えてないと選手には伝えました。理想の守備像は大体頭には描いてきてるんですけど、それは言えないんでね。まだ、源田しか決めてないです」

源田壮亮選手とともにチームの顔として活躍してきた、外崎修汰選手も例外ではありません。

西口監督
「セカンドはクエスチョンです。外崎選手はセカンドを守ってないかもしれない。どこかに固定して守ってもらおうとは考えてます。言えないですけど、見てればわかりますよ。お楽しみに」

外崎修汰 選手
「ことしの成績だったらレギュラー白紙は当たり前だと思う。そこに関しては、また一からレギュラーを取るつもりで心を改めている。本当に昔の“レギュラーを取るぞ”と言う気持ちでやれている。いい方向に進んでいると思います」

あの手この手でチームを生まれ変わらせようとしている西口監督。

長年、エースや指導者として西武を支えてきただけに、温厚そうな笑顔の奥には、今シーズンの屈辱的な低迷からなんとか自らの手でチームをはい上がらせ、“「強い西武」を取り戻したい”という意志も感じさせます。

最後にファンに向けてのメッセージを聞くと、力強く勝利を誓っていました。

西口監督
「1年間もちろん選手は必死にやってるんですけどね。ファンの方にも1年間最後まで野球を楽しむ、ライオンズの野球を楽しんでもらえるぐらい頑張っていきたいと思っています。来年は何としてでも1点でも多くとって、勝ちにいきたいと思う」

《取材後記》

西口監督は秋季キャンプ最終日の紅白戦終了後、選手たちに「内容のある練習ができたが『レギュラーをこのポジションで取るんだ』という気持ちをもっと見せて欲しかった。ポジションをつかみ取るのは自分自身だ」と呼びかけ、さらなる奮起を促しました。

西口監督が現役だったころの、強い西武が印象に強く残っているファンも多いと思います。

私もその一人で、西口監督の引退試合もいちファンとして球場観戦に行っていました。

今シーズンの戦いぶりを見ると、チームを立て直し、あのころの「強い西武」を取り戻すのはかなりの難題であるのも事実。それでもチームにゆかりのなかった仁志敏久コーチや鳥越裕介コーチを外部から招へいするなど、これまでに見られなかった動きも見られ、チームとして生まれ変わろうとする空気も感じます。

選手一人一人が西口監督のもと奮起し、歴史的な低迷から復活していくのか。今後も取材を続けていきます。

《プロフィール》西口文也(にしぐち・ふみや)監督

生年月日:1972年9月26日
出身:和歌山県
経歴
1995年 ドラフト3位で立正大から西武に入団。
     2年目に16勝をあげ即戦力の先発投手として活躍。
1997年 沢村賞・最優秀選手を獲得。

9回を完璧に抑えながら延長10回にヒットを打たれて完全試合を逃したほか、9回2アウトからヒットを打たれて、ノーヒットノーランを逃した試合が2回もあるなど、プロ野球ファンの印象に残る登板も多い。

2015年 現役引退。通算182勝118敗、防御率3.73。
・引退後編成部やコーチを歴任、おととし2軍監督に就任。

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