佐賀市のSAGAサンライズパークで10月にあった国民スポーツ大会(国スポ)陸上の少年男子走り高跳びで、福岡第一高3年の中谷魁聖選手(18)が自身の持つ高校記録を1センチ更新する2メートル25をマークして大会新記録で初優勝した。恩師が「高校生のレベルを超えている」と評する逸材は、2025年の世界選手権(東京)、28年ロサンゼルス・オリンピック出場と、世界での活躍を目指す。
既に優勝を決め、観客の視線が集まる。パン、パン、パン。中谷選手は胸を3度たたいて自らを集中させた。自己ベストより1センチ高い2メートル25の1本目。助走終盤の低い重心から反動させるような高い跳躍で体の弧を描く。足先がバーの上を越えると、会場からは大きな拍手と声援を浴び「大会記録と自己ベストの更新。目標を達成できてうれしい」と喜んだ。
福岡県行橋市出身で、5歳で陸上を始めた。中学で本格的に走り高跳びの世界に入ったが、目立った成績は残せなかった。福岡第一高進学後、田之上興造監督から「跳躍の基礎、根元の部分を教わった」と、助走や踏み切りなど技術を徹底的に学び、下半身を強化して下地を築いた。
全国高校総合体育大会(インターハイ)には1年時から出場するなど、全国区の選手になったが、決して勝てる選手ではなかった。転機は2年生だった昨年のインターハイ。決勝にこそ進んだが、記録は2メートルで9位に終わった。
「好きなだけではいけない」。田之上監督は中谷選手を諭した。「大きな試合で結果を出せる精神面がストロングで、技術的には高校生のレベルを超えている」と潜在能力を高く買っているがゆえ、競技に対する姿勢に物足りなさを感じていた。
中谷選手は、自身の跳躍と徹底的に向き合い、暇があれば動画を見返して研究を重ねる。今では監督を「練習や競技の取り組みがピカイチ」とうならせるまでに変化した。今年のインターハイでは、21年東京五輪代表の戸辺直人選手が持つ高校記録を15年ぶりに塗り替える2メートル24をマークし、U20(20歳以下)世界選手権(リマ)では銅メダルを獲得。大きな飛躍を遂げる1年となった。
国スポ直前には、助走で迷いが出て、感覚と理想がかみ合わない大きなスランプに陥っていたという。良いイメージで跳べたインターハイでの跳躍と比較し、原因を探り続けた地道な作業が、自己ベスト更新につながった。「跳べば跳ぶほど欲が出てくる。(2メートル)30を跳びたい気持ちがある」。中谷選手の挑戦に終わりはない。【丹下友紀子】
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