米大リーグのワールドシリーズ(WS)に臨んでいるドジャースの大谷翔平選手(30)が試合中に左肩を負傷して「亜脱臼」と診断され、日本にも衝撃が走った。今後の試合への影響が懸念されるが、実は亜脱臼はアスリートに限らず、一般市民にも起こり得る。特に再発リスクが高いのが若年層という。防ぐ上でどんな注意点があるのか。(太田理英子)

◆監督は「プレーできないとは思わない」

 大谷選手は26日のヤンキースとのWS第2戦で二塁に盗塁を試みた際、左手をついて滑り込み、左肩を痛めた。しばらく起き上がれず、顔をゆがめて左腕を押さえていた。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は試合後に「可動域は悪くない」などと説明。27日には「彼がプレーできないとは思わない」と述べた。  そもそも亜脱臼は、関節から骨が部分的にずれた状態を指し、完全に外れた状態になれば脱臼に当たる。亜脱臼は自分で元に戻せることがあるが、関節を覆う袋状の膜や靱帯(じんたい)も痛めるほか、関節の緩みが残ったまま位置が戻れば再発しやすい。脱臼に移行してしまうこともあるとされる。

◆体が柔らかく関節が緩いと自分で戻せることも

 名古屋スポーツクリニック(名古屋市)の杉本勝正院長は「肩の関節は、受け皿となる部分が小さく不安定。体の関節で最も動きやすい」と解説する。野球では、走者がヘッドスライディングで体をひねったり、内野手や捕手に肩を押されたりしたときなどに肩の亜脱臼が起きやすいという。

名古屋スポーツクリニックの杉本勝正院長(2017年撮影)

 大谷選手については「直後は痛がったが元々、体が柔らかい上、関節が緩く、自分で戻せたのでは。MRIで目立った組織損傷が見つからなかったのなら、盗塁さえしなければプレーできると思う」とみる。  アスリートで亜脱臼に悩む人は少なからずいる。  ダルビッシュ有投手が所属する米大リーグ・パドレスのフェルナンド・タティス選手は、2021年に14年総額3億4000万ドルの大型契約を結んだ直後から左肩の亜脱臼を繰り返した。ラグビーや相撲、サッカー、フィギュアスケートでも、同様に負傷する選手が後を絶たない。  杉本院長は「本来は初期段階で固定して安静にするべきだが、プロスポーツの場合は出血や腫れがなければ、テーピングして出場を強行することは珍しくない。出場を続けるなら、1~2週間おきにMRIなどでチェックをしたほうがいい」と話す。

◆実は一般人にも多い 手術が必要になることも

 実は亜脱臼が起きるリスクは、アスリートに限った話ではない。「スポーツで初めて起きることが多く、特に若い年代は再発しやすい」と話すのは、世田谷玉川整形外科内科クリニック(東京都)の月村泰規院長。スポーツで手を伸ばしたときに押された際や、球技で急激に方向を変える「カッティング」などの動作で、肩や膝を亜脱臼するケースが見られるという。

世田谷玉川整形外科内科クリニックの月村泰規院長(2023年撮影)

 高齢者でも転倒時に肩を亜脱臼する人は珍しくないが、再発の確率は年代が下がるほど高くなる。肩の場合、20~40歳が60%、20歳未満が80~90%との統計があるといい、月村院長は「若い人ほど関節が柔らかく、運動の頻度が多い。それらが影響すると言われている」と話す。  最初は亜脱臼でも、スポーツで再び痛めるなどして脱臼するようになると、2回目以降は寝返りなどの何げない動作でも起きる場合がある。月村院長は「初回のときに放置せず、きちんと固定して2週間ほど動かさないことが大事」と呼びかける。それでも再発や脱臼へ移行する傾向が強いため、「日常生活で関節が外れやすいような動きに注意するしかない。あまりに繰り返す場合は手術が必要となる」と指摘する。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。