ボクシングの世界タイトル戦4試合が13日、東京・有明アリーナであった。

 世界ボクシング協会(WBA)バンタム級2位の堤聖也(28)=角海老宝石=は、同級王者の井上拓真(28)=大橋=を3―0の判定で下し、王座を奪った。

 世界ボクシング評議会(WBC)フライ級1位の寺地拳四朗(32)=BMB=は同級2位のクリストファー・ロサレス(29)=ニカラグア=を11回TKOで下し、2階級制覇を成し遂げた。

 WBA同級王者のユーリ阿久井政悟(29)=倉敷守安=は、同級7位のタナンチャイ・チャルンパック(24)=タイ=に判定勝ちで2度目の防衛に成功。

 世界ボクシング機構(WBO)ライトフライ級王座決定戦では、同級1位の岩田翔吉(28)=帝拳=が、同級2位のハイロ・ノリエガ(31)=スペイン=に3回TKO勝ちし、初の世界王座を獲得した。

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堤、同学年対決を制す

 前へ、前へ。

 堤は前進を止めなかった。王者の井上拓をロープ際に追い詰めては、パンチの雨を降らせる。右アッパーを浴びるリスクは覚悟の上だった。

 10回にダウンを奪い優勢となっても、最後まで手を緩めなかった。「ポイントのこととか、全く考えていなかった」。判定3―0で完勝。井上拓の陣営は試合後、「技術というより、気持ちで負けた」と繰り返した。

 「本物のボクサー」の思いを背負っている。昨年12月、日本王座の4度目の防衛戦で戦った、穴口一輝さんのことだ。

 互いに譲らない打撃戦。名勝負だった。しかし、試合後、穴口さんは右硬膜下血腫のため、23歳で帰らぬ人になった。

 堤は今年2月に大阪府内であった通夜と葬儀に参列。ずっと隅のほうに座っていたが、出棺の見送りの際には一番前に出て、頭を下げた。

 この試合は世界戦以外の「年間最高試合」に選ばれた。授賞式ではこんな思いを明かしている。

 「試合前は僕がこれで終わるかもしれないとか、そういうことを考えている。覚悟してボクシングをしている」

 だから、諦めない。この日は高校2年夏の全国高校総体準決勝で敗れた井上拓にリベンジを果たし、28歳にして憧れのベルトを手にした。

 試合後、世界のベルトを天に掲げる姿があった。穴口さんには「報告は、したいですね」と、静かに語った。(大宮慎次朗)

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