病気などで背が低い「低身長」の人は、スポーツで競い合う機会が限られがちだ。今月、駒沢陸上競技場(世田谷区)で開かれた陸上大会で、低身長の人による砲丸投げがエキシビション種目として実施された。砲丸投げはパラリンピックでも行われる種目。参加した10人は小さな体に大きな可能性を秘め、球を思い切り青空に放り投げた。

山手勇一選手(手前)の投てきを見つめる参加者たち=駒沢陸上競技場で

◆日本代表選手が、指導法の教本作りの参考に企画

 真夏のような日差しのもと、投げるのは砲丸ではなくソフトボールでもOKというルールで、1人3投ずつ挑戦した。記録は2メートル足らずの子どももいたが、結果よりも体験が目的。競技を楽しんで記念撮影をし、最後は記録証が贈られた。  低身長の原因として多い難病「軟骨無形成症」では手足が短く、相対的に頭が大きくなり、大人になっても男性で身長130センチ程度にとどまる。  今回の発起人はこの病気による低身長で、今年5月に開かれたパラ陸上の世界選手権のやり投げで8位入賞した山手勇一選手(25)。日体大大学院でコーチングを専攻しており、「身体的な特徴に合わせた指導法の教本をつくりたい」。低身長の人たちに投てきをもっと経験してほしいと考え、初心者でも挑戦しやすい砲丸投げで企画した。

◆「スポーツが成功体験の一つになれば」

砲丸投げに挑戦する糸岡栄護さん=駒沢陸上競技場で

 世田谷区の小学5年糸岡栄護さん(11)はスポーツが大好き。小学2年からバスケットボールのチームに入っていたが、周りの子の身長が伸びるにつれ、シュートも入らず「悔しくもあったけど、諦めた」。今は多様な子がいるチームでサッカーをしている。この日は重さ2キロの砲丸を投げ、「重かったけど楽しかった」と笑った。  父親の栄博さん(43)は栄護さんの誕生後、軟骨無形成症の当事者らの団体「GLORY TO ACHONDROPLASIA(GTA)」を立ち上げた。「軟骨無形成症の人生に栄光を」という意味で、「スポーツが成功体験の一つになれば」と願う。

◆小学生から「低身長レスラー」まで幅広く参加

ソフトボールを使った砲丸投げに挑戦する窪田幸希子さん(手前)=駒沢陸上競技場で

 横浜市の小学4年窪田幸希子さん(9)はソフトボールを投げた。身長102センチ。同級生と同じようには体育の授業に参加できず、プールは足が届かないため見学する。トイレも洋式便座に自力で上がれず、台を置いてもらっている。母親の幸恵さん(42)は「習い事もさせたいが1人で通えない。こういう機会がないと普段は物おじしちゃうのでうれしい」と話した。  大学生の長嶋真一郎さん(22)は「同じ病気の人と関わる機会に」と参加した。小中学校時代を「人と比べてしまうのでコンプレックスがあった。特に運動会は大勢の視線にさらされて恥ずかしかった」と振り返る。今回の砲丸投げは「案外楽しい。こういう場があると知れて良かった」と顔をほころばせた。  「パラリンピックを目指そうかな」と話したのは、低身長のレスラーで俳優の「プリティ太田」こと太田博之さん(46)。今月閉幕したパリ・パラリンピックはテレビ放映が少なく、「結果だけじゃなくて競技する姿をもっと見せてほしかった」と語る。小さな体を自身の強みととらえ、特徴を生かして活躍しており、今回も「こういう場にも出て発信していければ」。おどけた表情で集合写真に納まると、子どもたちの笑いを誘っていた。

砲丸投げの構えで記念撮影する参加者たち=駒沢陸上競技場で

 低身長 身長が平均値より大幅に低くなる症状をいう。軟骨無形成症のほかホルモンの異常などさまざまな要因があるが、原因がはっきりしない場合も多い。日本では低身長そのものは障害とみなされないが、病気に伴う症状により、障害者手帳を取得する人もいる。

 ◆文・神谷円香/写真・七森祐也  ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。 

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