橘勇次さん=和歌山市で、鶴谷真撮影

 この夏の第106回全国高校野球選手権大会から、甲子園大会の審判委員に和歌山県高野連の2人が新たに加わった。いずれも和歌山市に住む橘勇次さん(31)と西岡俊揮さん(32)だ。塁審あるいは外野審判として3試合ずつ担当した。仕事の合間に年間50試合ほどジャッジしている2人は「今後、甲子園でぜひ球審もやってみたい」と声をそろえる。そして地元の高校野球界の発展につなげようと決意を新たにしている。【鶴谷真】

橘勇次さん 和歌山・箕島高出身

 箕島高の野球部出身。2年春の2009年センバツにチームは出場を果たしたが自身はベンチ入りできず、甲子園練習の際にショートを守った。卒業後に和歌山市の家庭用品メーカーに就職した。

 休日に草野球を楽しんだり少年野球のコーチをしたりするうちに、23歳の時に誘われて審判に。成り手が少ないだけに、大好きな高校野球の世界で役に立ちたかったという。

 甲子園での初ジャッジは大会第6日(8月12日)の第4試合、北陸(福井)対関東一(東東京)戦。三塁審判に入ると、すさまじく緊張した。「平凡なアウトになるプレーでも歓声がすごい。足が地に着かず、ずっとふわふわしていました」

 そこへ、自分へ向かって低い強烈なライナーが飛んできた。すぐに両手を上げてファウルを宣告したものの「足を上げて、変なよけ方をしてしまった」と苦笑いする。

 審判技術の向上のためには「基本が大事」ときっぱり。すなわちボールから目を切らず、プレーに集中し、ジャッジの際は目がぶれないように静止する。そんな審判の魅力は何だろうか。「感動の一番近くにいられることです。もちろん正確なジャッジは当たり前で、絶対に迷いませんし、自分の中でジャッジと感情ははっきり切り分けていますが」

 二塁審判を担当した第8日(8月14日)の第2試合、小松大谷(石川)対大阪桐蔭戦では、痛恨の送球ミスをした選手に自然に声をかけた。「切り替えていこう!」

西岡俊揮さん=和歌山市で、鶴谷真撮影

西岡俊揮さん 和歌山・向陽高出身

 向陽高野球部主将として3年春の2010年センバツに21世紀枠で出場。初戦で中国大会覇者の開星(島根)を破り、大きな話題になった。自身は5番セカンドで、2戦目には後にプロに進む投手から2安打1打点の活躍。和歌山大野球部でも主将を張り、15年から小学校教諭に。現在は砂山小で5年生の担任を務める。24歳で審判の道に入った。

 審判としての甲子園初戦は大会第3日(8月9日)の第3試合、菰野(三重)対南陽工(山口)戦のライト外野審判だった。「場にのまれて足が震えました」。だが考えている暇はない。「この場合はこう動く、とあらかじめ想定して待ち構える。いざカーンと打った瞬間にパッと動く。和歌山で練習を重ねました」。おかげで大舞台を無事に務めた。

 「人生」を感じるから審判が好きだという。「負けているチームから九回に代打で出てくる選手がいます。高校野球で一度きりの打席かもしれない。だから、しっかり選手名が場内アナウンスされるまで待つ。ゆっくりベースを掃き、『悔いないように振ろうな』って声をかけます」

 甲子園で多くの先達の姿に触れた今、課題はプレーにふさわしいジャッジをすることだ。「単に正確ならいいんじゃない。例えば重要な局面で、ぎりぎりのアウト、わずかに外れたボールなら、『惜しいぞ』といったニュアンスを伝えて試合を作っていく。その引き出しをもっと増やしたいです」。審判道は始まったばかりだ。

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