写真はイメージ=ゲッティ

パリ・パラリンピック 陸上男子400メートル(車いすT52) 決勝(30日、フランス競技場)

佐藤友祈選手(34)=モリサワ 銀メダル

 トラックは、まだ半周もしていない。目の端にはもう、前を行く黄色い背中が映る。

 それでも、佐藤友祈選手(34)=モリサワ=は信じていた。3年前のように、最後の直線で相手を追い抜く自分の姿を。ただ必死に腕を回し、雨にぬれたトラックを駆けた。

 結果は1秒16差の2位。圧倒的なスピードを見せたのは、ベルギーの新鋭マキシム・カラバン選手(23)だった。

 「最後の直線で相手を抜き去った東京の再現、やりたかったんですけどね。彼の方が一枚上手でした」

 そう振り返るのがやっとだった。

 東京大会で陸上車いすの400メートルと1500メートルの2種目を制した佐藤選手はこの3年間、連覇だけを目標に掲げてきた。ビッグマウスを貫き、この日もスタート直前、名前がアナウンスされるとカメラに向かって人さし指をつき上げた。

 「おれが1番になるよ」

 それが抱き続けた自負だった。大口をたたいて自ら重圧を背負い、注目を集め、力に変えてきた。

 ところが、ライバルとの実力差は歴然だった。

 2023、24年のパラ陸上世界選手権では2大会とも、カラバン選手の背を追った。その爆発的な加速力は、佐藤選手にはない。自分を高めベストを更新するだけの鍛錬を積んでも、通じなかった。

 この日のレース後、取材用のミックスエリアに姿を現すと、珍しく嘆いた。自らを「敗者」と言い、「超悔しい」と声を張った。

 それでも気持ちを立て直すと、いつものビッグマウスを発揮した。

 「若い彼にね、パラリンピックの連覇なんて重荷は背負わせられないんで。4年後、王者の座は僕が奪い返してやりますよ」

 銀メダルでは満足しない、いつもの佐藤選手がいた。【春増翔太】

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