佐賀市の和菓子屋「菓心まるいち」が販売している「餡MMu」=佐賀市鍋島町鍋島で2024年8月27日午前10時29分、西脇真一撮影

 パリ・パラリンピックの車いすテニスで、2021年東京大会銅メダルの大谷桃子選手(29)=かんぽ生命=はまず30日午後、女子ダブルスの初戦に臨む。2大会連続出場の強さを支えたのが、佐賀市の和菓子屋が作ったあんこ飲料だ。長期保存が利くパウチ容器入りで、あんこの喉ごしも追求したオリジナル。この商品が生まれたわけとは――。

 栃木県出身の大谷選手は高校卒業後に車いす生活となり、西九州大(佐賀県神埼市)に在学中に車いすテニスを始めた。佐賀を拠点に活躍し、東京パラでは、上地結衣選手(30)=三井住友銀行=と組んだ女子ダブルスで銅メダルを獲得。今大会は女子ダブルスとシングルスに出場予定だ。

大谷桃子選手

 自身のSNS(ネット交流サービス)で「和菓子をこよなく愛している」と公言する大谷選手の行きつけが、1950年創業の佐賀市の和菓子屋「菓心まるいち」だ。あんこやようかんは運動中のエネルギー補給や登山の行動食に適しているとされる。企画マーケティング室長の市丸翔大(しょうた)さん(31)によると、数年前に大谷選手から「海外遠征にあんこを持って行けたら」と相談があり、初めは店の瓶詰の商品を渡していた。

 しかし、瓶は重く割れる恐れもある。「持ち運びしやすいものになれば」。大谷選手のニーズを受け、市丸さんは商品開発を決意。23年1月ごろから製造部長の兄剛さん(36)とともに試作を始めた。

大谷桃子選手の希望を受けて開発したパウチ入りあんこ飲料「餡MMu」を手にする「菓心まるいち」企画マーケティング室長の市丸翔大さん=佐賀市鍋島町鍋島で2024年8月27日午前10時28分、西脇真一撮影

 店にとっては、若者の和菓子離れなど業界を取り巻く環境が厳しくなる中、新機軸を打ち出す挑戦でもあった。長期保存できるパウチ容器を採用し、あんこは小豆の煮詰め方などを試行錯誤して「飲めるほどの滑らかさ」(市丸さん)にこだわった。

 24年3月に店頭にお目見えした新商品の名は「餡MMu(あんむー)」。アルファベットは「mobile(携帯できる)」「motive(原動力となる)」「utility(実用性がある)」の頭文字から取った。

 味は「こしあん」「つぶあん」「はちみつレモン」(1本100グラムで157~177キロカロリー)の3種類。容器をもんでから封を開け、口に含むと、甘いがしつこくないあんこが喉を通っていく。原材料は「こしあん」の場合、北海道十勝産の小豆とザラメ糖のみ。市丸さんによると、大谷さんはドーピング対策の観点から何が入っているのか明確な点も評価していたという。

佐賀市の和菓子屋「菓心まるいち」本店で製造部長の市丸剛さんと共にパウチ入りあんこ飲料「餡MMu」を手にする大谷桃子選手(右)=2024年8月16日(菓心まるいち提供)

 SNSに「あんこ大好きな私にとって最強の補食です」とアップしていた大谷選手は、パリ出発を控えた16日夕に来店し「餡MMu」を持ち帰った。市丸さんは「大谷選手はお餅を入れてお汁粉にするような使い方も海外でしてくれていたようだ。パリでは、結果にかかわらず、次なる目標につながる戦いをしてくれたらうれしい」とエールを送る。

 餡MMuは1本389円。常温保存可能で賞味期限は製造から120日。まるいちのホームページはhttps://www.kashinmaruichi.co.jp/【西脇真一】

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