全府中野球倶楽部の平井孝治投手(左)と永野将司投手=五島佑一郎さん撮影
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 社会人野球の第48回全日本クラブ野球選手権(毎日新聞社、日本野球連盟主催)が31日、栃木・群馬両県で開幕する。地区予選を勝ち抜いた16チームが、クラブチーム日本一を目指し戦うが、14大会ぶりに出場を決めた関東代表、全府中野球倶楽部(東京都)には、「壁」を乗り越え、特別な思いで大会に臨む2人の投手がいる。

マウンド上でガッツポーズを見せる全府中野球倶楽部の平井孝治投手=栃木県足利市のジェットブラックフラワーズスタジアムで2024年8月11日午前10時47分、五島佑一郎さん撮影
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 「チームが上向きなので、つられて投げているだけ。でも今日はスライダーとカーブがいいところに決まった。腕もよく振れていたと思う」。今月11日、足利市で行われた関東予選。代表決定戦の後、汗びっしょりで満足げにそう語ったのは平井孝治(あつはる)投手だ。

 1970年生まれの54歳。神奈川・相武台高出身で、卒業後、全府中に入部。その後、都市対抗野球大会を目指し、東海地方の企業チームを渡り歩いたが、40歳目前の2009年に全府中に戻った。

 「毎年、『今年でやめよう』と思っていたが、けがの少ない野球人生で、ここまで来てしまった。最近は『こうなったら体が動く間はやってやる』と気持ちが変わりました」

 代表決定戦では1点を追う五回から登板した。ベテランらしく90キロ台から130キロ台まで、球種を変えて投げ分けて打者を翻ろう。八回までを2安打に抑え、逆転勝利を呼び込む原動力となった。

 チームでは若手のコーチ役も兼務するが「やっぱり投げたい。投手ですから」。試合までの日数を逆算し、調子を万全に整えて大会に臨む。

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代表決定戦に勝利し、グラウンドに駆け寄る全府中野球倶楽部の選手たち=栃木県足利市のジェットブラックフラワーズスタジアムで2024年8月11日午前11時20分、五島佑一郎さん撮影
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 「入部3年目で、土日中心の調整や練習にも慣れてきた。今年は調子がいいので、このまま隙(すき)を作らないように持って行きたい」と語るのは、全府中のエース、永野将司投手(31)。元プロ野球ロッテに4年間在籍し、中継ぎとして22試合に登板した。

 永野投手の存在が広く知られたのは2年目の19年、パニック障害の一種とされる「広場恐怖症」の公表がきっかけだ。乗り物や閉ざされた場所で、動悸(どうき)や過呼吸などの症状を発症する。九州国際大時代には、酸素カプセルに入るトレーニングで症状に襲われた。社会人野球のホンダを経てプロ入りしたが、キャンプや遠征で長距離移動を伴うプロ生活には困難が伴った。

 戦力外通告を受け、22年からは全府中でプレー。今月の関東予選では、先発と抑えを2日連続でこなして勝利に貢献した。今は、近場でもあえて電車に乗って体を慣らすなど、自分なりに病気と付き合いながら野球を続けている。「チームの目標だった全国大会の切符をつかめてよかった。本大会では先制点を与えない、力強い投球でチームを引っ張りたい」と意気込む。

 全日本クラブ野球選手権は、足利市のジェットブラックフラワーズスタジアム、栃木市のエイジェックさくら球場、群馬県太田市の市運動公園野球場で9月3日まで開催予定。【小林祥晃】

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