目次

  • 限界に挑戦する“パラ陸上”

  • 道具やパートナーと一体に

限界に挑戦する“パラ陸上”

パラリンピックの陸上は、1960年の第1回、ローマ大会から実施されている伝統ある競技です。

義手や義足、競技用車いす、そして、視覚障害の選手を導く伴走者。さまざまな障害のある選手があらゆる道具を駆使し工夫を凝らして「走る」「跳ぶ」「投げる」の限界に挑戦するのがパラリンピックの陸上です。

花形競技の1つで、パリ大会ではすべての競技の中で最も多い164の種目で1000人以上の選手がメダルを競います。

道具やパートナーと一体に

【競技用 義足】
足のない選手に欠かせないのがカーボンファイバー製の板を使った競技用の義足です。地面を蹴るときの反発力を生かして走ったり、跳躍したりしますが、義足を十分にたわませて大きな反発力を得るためには、選手には義足を体の一部として使いこなせるだけの筋力や技術が求められます。

【レーサー】
車いすの選手は「レーサー」と呼ばれる3輪の競技用車いすに乗って走ります。ギアなどはなく選手は腕力など上半身の力だけでスピードを生み出すため、選手の力が車いすに最も効率よく伝わるよう座席の高さを調節するなど、ミリ単位の調整が欠かせません。

【絆】
視覚障害の選手は「絆」と呼ばれるガイドロープで結ばれた伴走者や、走り幅跳びで踏み切りの位置やタイミングを声や手拍子で伝えるコーラーと呼ばれる先導役と二人三脚で競技します。

【指導者】
知的障害の選手にとっては、障害の特性を理解してくれる指導者の存在が欠かせません。

道具やパートナーと極限まで同化してコンマ1秒のタイム、1センチの距離を削り出す、選手たちの工夫と努力がパラリンピックの陸上の最大の見どころです。

東京大会以降に登場した新星に注目

活躍が期待されるのは、前回の東京大会以降に登場した新星たちです。

その筆頭が、視覚障害のクラスの、福永凌太選手(25)です。錐体ジストロフィーという目の病気の影響で、小学4年生の頃から徐々に見えづらくなり、離れたものや小さく細かいものがほとんど見えません。

小学5年生で陸上を始め、大学では10種競技の選手として健常者の大会で優勝を目指してきました。

4年前の秋、パラ陸上に転向すると、走り幅跳びや短距離で日本記録を更新。初めて出場した去年の世界選手権では、400メートルで金メダル、走り幅跳びで銀メダルを獲得しました。

その福永選手の最大のライバルがアルジェリアのスカンデル ジャミル・アスマニ選手です。ことし5月の世界選手権では、400メートルで敗れ、連覇はなりませんでした。

パリ大会では、アスマニ選手との差をどこまで縮め、金メダルを手にすることができるか、大きな見どころの1つです。

さらに、日本選手団の「顔」として旗手を務める石山大輝選手にも注目です。

石山選手は、陸上の三段跳びに打ち込んでいた高校1年生の時、進行性の目の病気の「網膜色素変性症」と診断され、大学4年生でパラ陸上の走り幅跳びに転向しました。ことし5月の世界選手権で日本記録を更新する7メートル8センチをマークして銀メダルを獲得するなど、初出場のパラリンピックでメダル獲得が期待される若手のホープです。

投てき種目でもメダル期待

前回の東京大会では、メダルには及ばなかった投てき種目でメダル獲得が期待されています。その1人が女子砲丸投げ、腕に障害があるクラスの齋藤由希子選手です。

齋藤選手のクラスは、過去3大会パラリンピックでの実施が見送られたため、パリ大会が初めての出場です。

中学時代から砲丸投げに打ち込み、去年まで世界記録を持っていた齋藤選手。パリ大会での実施が決まり、一躍メダル候補に躍り出ました。

世界選手権では、2大会連続で銅メダルを獲得していて、世界の強豪にどこまで食らいつけるか、注目です。

もう1人、注目なのが女子円盤投げ車いすのクラスの鬼谷慶子選手です。去年4月、パラ陸上の世界に本格的に飛び込びました。

20歳の時に「ビッカースタッフ型脳幹脳炎」という難病を発症し、左手足に力が入らなくなって電動車いすで生活しています。日本では少ない座位の姿勢を保ったまま競技を行う選手です。

海外選手を相手に力負けしないよう、筋力トレーニングに力を入れことし5月、初出場した世界選手権で、自己ベストを3メートルあまり上回る14メートル49センチのアジア記録をマークして銀メダルを獲得しました。パラリンピック初出場でメダル獲得をねらいます。

目が離せないベテラン勢も

一方、これまでパラ陸上界をけん引してきたベテラン勢の活躍にも目が離せません。

その1人が、東京大会で2つの金メダルを獲得した佐藤友祈選手です。男子400メートル車いすのクラスで連覇を目指します。

佐藤選手の強力なライバルとなるのが、ベルギーの23歳、マクシム・カラバン選手です。カラバン選手に自身の世界記録を塗り替えられ、去年の世界選手権から2大会続けて敗れた雪辱をパリで果たします。

そして「最後のパラリンピック」に臨む女子走り幅跳び、義足のクラスの39歳、中西麻耶選手です。

5大会連続出場の中西選手は、パリ大会を前に今もなお、新しい義足を取り入れたり、助走を改善するなどの挑戦を続けていて「今が一番自信を持って競技に取り組めている」と充実した様子で練習を重ねています。パリ大会を最後のパラリンピックと位置づけ自己ベストの5メートル70センチを更新する6メートル台の跳躍を目指します。

最終日は金メダル期待!連覇目指す道下美里

パリパラリンピックの最終日を飾るのがマラソンです。パリ北部の郊外でスタートし、開会式が行われるコンコルド広場やシャンゼリゼ通りなどパリの観光名所を走り抜け、レース終盤には、激しい上り坂が待ち受けます。

マラソンは3つのクラスで争われ、ガイドロープで結ばれた伴走者のガイドで走る視覚障害のクラスは、道下美里選手がパラリンピック2連覇を目指します。道下選手は、前回の東京大会で2位と3分以上の差をつけて金メダルを獲得していて、47歳で挑むパリ大会で記録更新と連覇を狙います。

さらに、車いすのクラスには夏と冬合わせて9回目のパラリンピック出場の「レジェンド」、49歳の土田和歌子選手も登場します。

必見!海外の超人

そして、世界の超人たちの活躍も必見です。

最も注目されるのが、男子走り幅跳び義足のクラスで「ブレード・ジャンパー」の異名をとる、ドイツのマルクス・レーム選手です。レーム選手は、この種目でパラリンピック3連覇を果たし、オリンピックの走り幅跳びの金メダリストの記録を上回ったこともあります。ことし5月の世界選手権では大会7連覇を果たしました。圧倒的な強さを誇るレーム選手が目指すのが、「8メートル95センチ」の健常者の世界記録です。

そして、圧倒的な走りが期待されるのが、パラリンピックの女子100メートルなどで7つの金メダルを獲得しているイギリスの脳性まひなどのクラス、ハナ・コックロフト選手です。前回の東京パラリンピックでは世界記録を更新して金メダルを獲得しました。

前人未到の新たな記録が生まれるのか、超人たちの活躍に目が離せません。

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