<マイ・ウェイ! パリ・パラリンピック>  いつも頭にあるのは「どうすればパラスポーツの魅力を最大化させられるか」。競泳男子全盲クラスの富田宇宙(EYジャパン)にとって2大会連続出場となるパリ・パラリンピックはそのヒントを探しに行く場でもある。

◆スペインで目の当たりにした「真のバリアフリー」

日本代表の合宿に参加する富田宇宙(右)=2023年12月

 高校2年で急速に視力を失う難病が分かり、視界が狭まっていく中で2012年に飛び込んだこの世界。さまざまな障害のある人たちが残された機能を最大限に生かし、自分だけの泳ぎを模索する姿に魅了された。その成果を示すパラリンピックは、単なる結果にとどまらず、障害とともに歩むおのおのの生きざままでも浮き彫りにする。「自分なりのゴールに向かう姿は、レベルが低くても輝いてるし、かっこいいと気付かせてくれる。五輪にはないパラのアイデンティティーだ」と思った。  初出場の東京パラでは、メダル3つを獲得。「感動をもらった」という激励もたくさん届いた。光を失い、一度は諦めた宇宙飛行の夢を再び追いかける後押しにもなった。注目を浴びる中で競技ダンスやサーフィンなど、他競技にも積極的に挑戦し、パラスポーツの魅力を発信する足掛かりにしてきた。

東京パラリンピック男子100メートルバタフライ決勝でレースを終え、抱き合って喜ぶ金メダルの木村敬一(左)と銀メダルの富田宇宙=2021年9月

 障害者の社会進出が進んでいると聞き、東京パラ後は拠点をスペイン・バルセロナに移した。白杖(はくじょう)を手に町を歩けば自然と誰かが道案内をしてくれ、一般のプールに顔を出すと、重度障害者も健常者に交ざって水泳を楽しむ。合間に帰国する日本では見られない光景ばかり。  「日本ではバリアフリーというとファシリティ(設備)から入るが、やりたい人とやらせてくれる人がいれば成立するんだ。障害への理解が進み、オープンマインドな人も多いスペインなら、障害のある人も生きやすい」。本当の意味でのバリアフリーとは何かを肌で感じた。

◆「選手ではない方がいいのかも…」葛藤の先、覚悟のパリへ

日本代表の合宿でインタビューに応じる富田宇宙=2023年12月

 東京パラの頃に描いた理想と比べれば、国内のパラスポーツを取り巻く機運もしぼんでいるように感じ、「自分は選手ではない形で関わった方がいいのでは」と考えたときもある。それでも練習は一切手を抜かず、パリの切符を勝ち取った。  「選手である以上、自分の記録を超えて結果を出すのが仕事。それを通して、僕が思うその価値や、僕がパラリンピックからいただいたものを皆さんにお届けできれば」。障害者になり、下を向いてばかりだった人生を前向きに変えてくれたパラリンピック。その可能性をもっと広げたい。パリのプールで最善を尽くした先に、新たな景色が見えると信じている。(兼村優希)

 富田宇宙(とみた・うちゅう) 35歳、熊本県出身。今大会は最も得意とする男子400メートル自由形を皮切りに、混合400メートルリレー、男子100メートルバタフライに出場予定。



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