延長タイブレーク2試合を含む3試合で完投する奮闘を見せた大社のエース左腕・馬庭優太投手=阪神甲子園球場で2024年8月17日、山崎一輝撮影

 第106回全国高校野球選手権大会は、4強が出そろった。準々決勝までの投手の完投数は30で、既に前回大会の14から倍以上に増えている。そのうち完封は11を数え、2桁に達したのは1999年以来、25年ぶり。今春から反発性能を抑えた低反発バットが導入され、投手優位の傾向が出ている。

「マダックス」2人達成

 昨夏の完投数14は、2021年の30と比べても半減したが、今夏はその30に達した。99年の13を機に1桁が続いていた完封は昨夏の4から大幅増。昨夏は各チームとも複数投手を育成し、短いイニングでの救援が目立ったが、今年は一人で投げきるケースが多い。しかも既に100球未満で完封する「マダックス」は、2回戦で2人も登場。マダックスとは抜群の制球力を誇った、米大リーグ通算355勝の名投手グレグ・マダックスの名前にちなんだものだが、それほどの快投だった。

 明徳義塾の2年生左腕・池崎安侍朗(あんじろう)投手が鳥取城北を相手に95球で完封。小松大谷のエース右腕・西川大智投手は春夏通算9回優勝を誇る大阪桐蔭の打線を92球、5安打で無失点に封じ込めた。完封の背景にあったのは、暑さ対策の意識や低反発バットの影響だった。

 池崎投手は暑さ対策で球数を抑えるため、低めに投げて打たせて取る投球を意識したことが奏功した。「完投するつもりでマウンドに上がった」とまで言い切った。

 西川投手はテンポ良く打たせ、大阪桐蔭から14個のフライアウトを奪った。「三振を奪うよりも打者の反応を見て打たせて取るタイプ。打者が手を出したくなる球を投げ続けた結果、フライアウトを重ねることができて完封につながった。飛ばないバットになってありがたかった」。低反発バット導入を味方につけて堂々と勝負にいって抑えた。大阪桐蔭打線もうまくとらえきれなかった様子がうかがえ、投手心理にもプラスの影響を与えている。

京都国際は3戦連続完封

【小松大谷3-0大阪桐蔭】92球で大阪桐蔭を完封した小松大谷の西川大智投手=阪神甲子園球場で2024年8月14日、矢頭智剛撮影

 京都国際、神村学園はここまでの全4試合で、2人の投手が完投勝利を挙げてきた。

 京都国際は、2回戦から準々決勝まで3試合連続で完封を成し遂げている。2年生左腕の西村一毅投手は2試合連続完封で、中崎琉生(るい)投手は1完封含む2完投。投手指導に携わっている宮村貴大部長は「うちは投手が2本柱しかいない」とした上で、「低反発バットに変わって点が取りにくくなったことで1点の重みが今までよりも大きくなり、2番手以降の投手を起用しづらいところがあるのではないか」とみる。

 神村学園は酷暑のなかでも完投できるような体力作りを意識してきたという。左腕・今村拓未投手が2試合、2年生右腕の早瀬朔(さく)投手が1試合をそれぞれ完投した。小田大介監督は「この暑さの中でも完投できる体力を身につけようと日ごろから取り組んできたことで終盤まで球威が落ちなかった」と話す。

 低反発バットを逆手にとり、積極的に内角を突く軟投派投手もいた。初戦の2回戦で智弁和歌山を延長十一回タイブレークの末に破った霞ケ浦は、先発した2年生左腕・市村才樹投手の遅い球がはまった。完投したわけではないが、直球は120キロ台で80~90キロのスローカーブを有効に使い、強打の智弁和歌山打線を四回まで無安打に抑えた。

 低反発バットの影響について、霞ケ浦の高橋祐二監督は「スピードがない分、振らなければ飛ばないっていうイメージがわくんだと思う。低反発であればスイングの力といっても、二の腕に力が入ったらバットのヘッドが走らなくなる。やっぱり緩いボールってのは打つのは難しいのかなって気はする」と振り返った。

「公立もなんとかなる」

 1点を争う戦いで、公立高校にも勝つチャンスが広がった。93年ぶりの準々決勝進出を果たした大社は、延長タイブレーク2試合を含む3試合でエース左腕・馬庭優太投手が完投。計30回で401球を投げた。春夏通じて甲子園初勝利を挙げた石橋は、初戦の2回戦で入江祥太投手が135球で完封した。福田博之監督は「(低反発バットでは)公立優位かなと。投手を強くすれば、公立もなんとかなるかなという感じがした」と話す。

 疲労がみえてくる準決勝からの戦い方に投手起用がいかに影響するのか。交代のタイミングも見どころになりそうだ。【円谷美晶】

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