(17日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 神村学園7ー1岡山学芸館)
岡山学芸館の山内壱球は、「まじ……」と返すしかなかった。寮の大部屋で布団の上に十数人が車座となり、耳を傾けた。
5月末。能登半島地震で被災した石川・輪島高が招待試合で岡山に来た。宿泊地は岡山学芸館の寮。夜、あの日のことを聞かせてもらった。
「小遣いで買ったスニーカーも燃えちゃったんだよね」。校庭が地割れし、他校で練習したこと。家が全焼して野球用具を失い、一度野球から離れた部員がいたこと。想像もつかないほどつらいはずなのに、不思議なぐらい明るかった。「色んなことを乗り越えてきたんだろうな」。自分たちにはない強さを感じた。
大阪府高槻市出身。小学6年生のころ、震度6弱の地震に遭った。柵にしがみつくしかなかった恐怖は覚えていたが、大事なことを忘れていた。
「当たり前」への感謝だ。寮長として、寮生50人以上を束ねる。共用スペースに脱ぎっぱなしの服が落ちていないか、グラウンドにゴミやボールが落ちていないか。「俺たちはぜいたくしすぎている」。そう仲間に伝えた。輪島のような「強いチーム」になりたくて。
甲子園出場を決めた日、SNSにメッセージが届いた。「応援に行けるかわからないけど、がんばって!」。輪島の主将、中川直重からだった。
仲間と夢の舞台に行けるんだから、悩んでちゃだめだよな。秋春はベンチ入りしたけど、夏はメンバー外。中川の言葉で吹っ切れた。試合終了まで応援団の最前列で踊り尽くした。
輪島のみんなにも、胸を張れる夏だったと思う。(大宮慎次朗)
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