高校野球で「7イニング制」を導入する案が浮上している。日本高校野球連盟が、公式戦を全国一律で7回制に短縮することを検討し始めた。酷暑が問題視される中、聖地・甲子園で大会を続けるための切り札になるのか。競技としての質の変化は受け入れられるか。(中川紘希)

◆サッカーなど他競技では「短縮」は珍しくない

 熱中症対策を模索する高野連は昨年、五回終了後に選手らが水分補給する「クーリングタイム」を地方大会から取り入れ、今夏の甲子園では序盤の3日間、午前と夕方に分けて試合を行う「2部制」も導入した。

足がつり、水分を補給する選手=甲子園球場で

 さらなる一手として提案されたのが「7回制」。高野連は2日、オンラインで理事会を開き、検討のためのワーキンググループ設置を発表した。12月に結果を報告する予定だ。  他のスポーツでも選手に配慮した取り組みがある。高校総体の男子サッカーでは冷涼地での開催が模索され、今年から福島県での固定開催が決まった。日本サッカー協会のサイトによると、高校総体の試合時間は70分(35分ハーフ)、冬の選手権大会は準々決勝まで試合時間は80分(40分ハーフ)。プロの90分(45分ハーフ)より短くしている。

◆「ルールは変わるもの」だけど「涼しい環境」が大事

 高校野球に詳しいスポーツライターの中島大輔さんは、7回制導入について「選手の安全を第一に考えるべきで、時間短縮はいいアイデアだ」と歓迎する。今年の甲子園でも球数が多い投手がいるとし「完投までの球数が減れば、健康面のプラスがある」と述べた。

7日、夏の甲子園の開会式中に水を補給する選手たち

 7回制は、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催するU18(18歳以下)のワールドカップ(W杯)でも導入され、米国の高校世代の試合でも原則実施されている。中島さんは、新型コロナウイルス感染拡大時に米大リーグのダブルヘッダーも7回制だったとして「ルールは変わるもの。変わっていく中でやればいいのでは」と話した。  スポーツ科学が専門で東京五輪の暑さ対策に携わった大阪公立大の岡崎和伸教授も「暑い場所にいる時間を減らせば熱中症のリスクは軽減される」と語る。ただ「熱中症対策だけを考えれば、将来的には涼しい時期やエアコンがきく場所で試合をすることを目指すべきだろう」と付け加えた。

◆指導者の見方「逆転しにくく、先行逃げ切りしやすくなる」

 現場の声はどうか。  石川県の強豪、日本航空石川高校の中村隆監督は反対の立場を強調。東京新聞「こちら特報部」の取材に「野球は九回まで流れが行ったり来たりする」と述べた上で「回数が減れば逆転しにくく、先行逃げ切りがしやすくなる。戦略の立て方が単純になり、面白くなくなるのでは」と懸念した。  大阪府の履正社スポーツ専門学校でコーチを務める元阪神の亀山努さんも「野球が全く変わってしまう」と危惧する。野球は六、七回くらいから打者が投球に慣れ始めると指摘。「7回制では実力差が現れないまま試合が終わる」と見通し「ジャイアントキリング(番狂わせ)は増えるかもしれないが、それは違う種目では」と話した。  亀山さんは熱中症対策の必要性は認め、大会の時期や試合開催の時間帯に関する議論を優先することを期待する。近年は、五輪競技として継続採用されるために時間短縮のルール変更が増えているといい「政治的な動きが背後にないか。当事者の声を反映するためにも、議論の過程をもっと発信してほしい」と求めた。 

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