この夏も目で追ってしまう球児の髪形である。昨夏は「エンジョイベースボール」を掲げ、自由な髪形で話題になった慶応(神奈川)が107年ぶりの全国優勝を果たした。あれから1年がたった。第106回全国高校野球選手権大会の出場校に、髪形への思いを聞いた。
きっかけはコロナ禍
7日の開会式。一堂に会した49代表校の選手たちのうち、少なくとも6校は「脱丸刈り」だった。前回大会では少なくとも7校が髪を伸ばしていたので、ほぼ前年並みだったが、理由はさまざまだ。
春夏通算11回の優勝を誇り、10日の初戦で春夏通算137勝となった中京大中京(愛知)も髪形を自由にした。「ダブル主将」の一人の杉浦正悦(まさよし)選手(3年)はサイドを短くし、全体的にはやや伸びた髪形。地元の愛知県安城市の店で「横を短くする以外はお任せ」でオーダーしているといい、「多様性の時代なのでいいこと。『坊主頭だから野球をやらない』という人もいると思うので、野球人口が増えることにつながれば」と話す。
「髪形の自由化」は今年2月ごろ、中京大中京の卒業生でもある高橋源一郎監督が提案した。高橋監督は「スポーツマンらしさや学校の校則を総合して、自分で判断できる人間を育てていきたかった」と話す。生徒の主体性を尊重して、丸刈りを好む選手はもちろんそのままでもいい。
考えるきっかけになったのは2020年、新型コロナウイルスが感染拡大したことだった。自宅待機中に髪の伸びた選手から「伸ばしてもいいですか」と問われたという。その時は「選手が『大会もないし』と投げやりな感じだった」と受け入れなかったが、自身の高校時代はスポーツ刈りだったことも踏まえ、あり方を模索していたという。高橋監督は「不易流行ではないが、ずっと続けていく部分と時代に応じて柔軟に対応していく部分のバランスが重要だと考えている」と語る。
コロナ禍が「脱丸刈り」のきっかけになったのは、9日の1回戦で春夏通じて甲子園初勝利を挙げた新潟産大付も同じだ。
コロナ禍で部活動が制限されていた当時、チーム内では毎週テーマを決めてリポートにまとめる取り組みをしていた。吉野公浩監督が「野球人口を増やす方策」をテーマにすると、ある選手から「自分は丸刈りで構わないが、友人は坊主頭が嫌で野球を続けなかった。自由にした方がいい」と意見があったという。吉野監督は「いずれはどこかで自由にすべきだと思っていたので、決め手になった」と説明する。切り替えのタイミングを検討し、昨夏から丸刈り以外も許容した。
月1回は美容室へ
「趣味は散髪」と話す球児もいる。英明(香川)のチーム内では5年ほど前から部内の頭髪ルールを校則と同じにしており、橋本結真選手(2年)は月1回は美容室に通っている。
今夏の大会の前は、人気バスケットボール漫画「スラムダンク」の主要キャラクターの一人、「宮城リョータ」に似せたサイドを短く刈り込む髪形をリクエストした。「周囲のチームは頭を丸めている子が多いが、それを気にすることなく自分たちのやり方で良いと考えている」と語る。
一方、「丸刈り」にこだわりを持つ学校もある。神村学園(鹿児島)はチームの一体感の醸成に役立てている。
木下夢稀(ゆめき)選手(3年)によると、試合前はお互いに頭を刈り合い、五厘刈りにするのが恒例。「マイバリカン」を各自が持っているという。髪が短いと洗うのが楽だというメリットもあるが、「一番の理由はチームを一つにして気合を入れること」と木下選手は話す。
たかが髪形、されど髪形――。髪形にもチームの特徴が詰まっている。【石川裕士、長宗拓弥】
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