ブレイキン女子決勝、演技する湯浅亜実=コンコルド広場で2024年8月9日、平川義之撮影

パリ・オリンピック ブレイキン女子 決勝

 湯浅亜実選手(25)=ダンサー名・AMI= 金メダル

 五輪の決勝で見せようと、大事に温めていた勝負技を、湯浅亜実選手は準決勝で披露した。勢いのあるオランダの若手に押される展開で迎えた第3ラウンド。「深く考えたというよりは、何かパッとここで出さなきゃって」。あおむけになり、銃を撃つような仕草を取り入れた個性的なムーブ。第1ラウンドは落としたが第2、第3ラウンドを奪って、決勝進出を決めた。

 師と仰ぐ石川勝之コーチから受け継いだムーブで、これまで「決勝や自分の思いを伝えたい時など、大事な場面で使うことが多かった」という勝負手。それを準決勝で先に出したとしても、金メダルまでの道のりはくっきりと見えていた。

 その理由の一つが、湯浅選手の技の種類の豊富さ。1対1のバトル形式で行われる試合では技術、多様性、独創性、完成度、音楽性の5項目が見られるが、ブレイキンでは一つの大会で同じ技を繰り返すと評価をされにくくなる。湯浅選手は多くのダンサーが集まる聖地・武蔵溝ノ口駅(川崎市)で、さまざまな国籍や年代の人に入り交じり、多彩な技を学びながら腕を磨いた。ムーブの間のつなぎまでも美しい流れるような踊りとともに、技の引き出しの多さは大会で戦う上での唯一無二の武器となった。

 決勝は昨年の世界選手権女王のリトアニアの17歳、バネビッチ選手との対戦。ステージ裏で石川コーチが「まだネタ(技)持ってる?」と確認すると湯浅選手は「全然あります」と答えた。その頼もしさに石川コーチは「OK。はっちゃけて、楽しんで踊ってこい」とだけ伝えて送り出した。

 夕日とライトアップで照らされたコンコルド広場に、アップテンポな曲が大音量で響く。大観衆は立ち上がり、大声を出して、会場は熱狂に包まれた。湯浅選手は、小刻みなステップを踏んでの足さばきにキレのあるパワームーブと、よどみなく流れるような踊りで、「AMI」にしか表現できない個性を出しきった。対するバネビッチ選手は勢いのあるムーブで沸かせたものの、準決勝までと同じ特徴の動きも見られた。

 ビジョンに映し出されたスコアは、第1~3ラウンドのいずれも湯浅選手側を示す「赤」が相手の青を上回った。金メダルが決まった瞬間、湯浅選手の元には石川コーチらがすぐに駆け寄り、歓喜の輪ができた。2位になったバネビッチ選手も拍手をしながら、その輪に加わった。「本当だったら泣きたいくらいうれしいはずだが、まだ実感がなくて。ちょっとふわふわした感じです」。夢見心地の初代女王は、競技の面白さも、カルチャーの魅力も両方を発信して、ブレイキンの歴史に一ページを刻んだ。【パリ角田直哉】

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