パリ五輪のバレーボール男子の準々決勝で声援を送る観客たち=パリで2024年8月5日、ロイター

 熱戦が続くパリ・オリンピック。会場には連日、大勢の観客が集まり、叫ぶように声援を送っている。思えばわずか3年前、東京では新型コロナウイルス禍の中、無観客で五輪が開催されていた。「コロナに打ち勝った証し」。東京五輪で掲げたこのスローガンは、むしろパリ五輪にこそふさわしいように思えてくるが……。

 5日夕、エッフェル塔にほど近いシャンドマルス・アリーナでは、レスリングの観戦を終えた観客たちが続々とゲートから出てきた。日本のラッシュアワー並みの混雑だ。

 「みんなワクチンを打っているからリスクは少ない。会場ではマスクなしで大声を出しているよ」。柔道に続きこの会場で観戦を楽しんだというパリ在住のコレンティンさん(30)はこう語った。「コロナは単なる病気の一つ。とくに怖くはない。パンデミック(世界的大流行)は終わった」

 もちろん、かつては違った。

パリ五輪のビーチバレーで、試合中にハグをする米国の選手たち=パリで2024年8月4日、ロイター

 フランスは2020年1月、欧州で初めて新型コロナの感染者が確認された。3月には学校が休校になり、レストランやカフェ、映画館なども営業を停止。約2カ月にわたる外出禁止令も出し、違反者には罰金を科す徹底ぶりを見せた。

 それでも感染は拡大し、1週間に200万人以上の感染者が出た時期もあった。世界保健機関(WHO)によれば、フランスのこれまでの感染者数はのべ約3900万人。人口10万人あたりの感染者数は日本の倍以上の約6万人だ。

 だが、ワクチンの普及とともに厳しいコロナ対策は緩和に向かった。予防措置が解除され、日常生活が戻って久しい。

「密」があふれる五輪会場

 いまでは街中でマスクをしている人はほとんどおらず、地下鉄や五輪の競技会場には「密」があふれる。「予防のためマスクをしていると、むしろ感染者だと思われて避けられる」(パリのたばこ店主、ギヨムさん)と言われるほどだ。

東京五輪のサッカー女子で、無観客での開催となり、空席の中でピッチに入る英国とチリの選手たち=札幌ドームで2021年7月21日、宮武祐希撮影

 思い出されるのは、厳しいコロナ対策が敷かれた東京五輪だ。

 選手や関係者らは「バブル」の中に隔離され、選手村や会場など決められた場所以外を訪ねるのは原則として禁じられた。大会中に東京タワーなどを観光したとして出場資格を剥奪された選手たちもいたほどだ。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が銀座を散策して批判を浴びたのも記憶に新しい。

 一方、パリ五輪ではこうした対策は一切取られず、選手も観客もにぎやかにスポーツの祭典を楽しんでいる。街を散策する関係者も少なくないし、勝利を祝ってハグを交わす姿も一般的だ。

 とはいえ、フランスでコロナが消えたわけではない。保健当局によると、7月第1週に確認されたコロナの疑いがある症例は2359件で、入院となったのは715件だった。

 五輪でも感染が確認されている。オーストラリアは水球チームで5人の女子選手が検査で陽性となったほか、感染により試合を棄権した競泳選手も出た。ロイター通信によると、競泳では英国の選手も感染が判明している。

 それでも、大会関係者の感染者数を発表していた東京五輪とは異なり、今大会では「コロナに関する特別なデータはない」(組織委)という。組織委の広報担当、デキャンプ氏は感染対策について「コロナだけでなく、あらゆる健康を巡る問題についてフランス当局と密接に連絡を取っている。選手らにマスク着用や除菌などをするよう注意喚起している」と話している。【パリ金子淳】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。