久留米競輪場でのスピード練習で、部員の状態を確認しながらバイクを運転する平田崇昭さん(左)=福岡県久留米市で2024年7月19日午後3時27分、谷由美子撮影
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 パリ・オリンピックで5日から始まる自転車競技のトラック種目に、福岡県出身の男女4選手が挑む。うち3選手は久留米市にある高校の自転車競技部員だった。「ケイリン」を世界に広め、五輪種目に押し上げた“レジェンド”も輩出している街・久留米で、強さが育まれた秘密を探った。

 7月中旬の久留米競輪場(同市)。1周400メートルのバンクで、私立祐誠高(同市)自転車競技部の部員が、プロ選手向けのメニューで、オートバイを追走するスピード練習に取り組んでいた。同高から競輪場までは通学用の自転車で約15分。レース開催日を除く放課後の約3時間、ここで練習するという。

ローラー台を使った練習を見守る野田豊監督(手前から3人目)=福岡県久留米市の祐誠高で2024年7月11日午後3時13分、谷由美子撮影
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 五輪代表の今村駿介(26)=チームブリヂストンサイクリング▽内野艶和(つやか)(22)=日本競輪選手会▽池田瑞紀(19)=早稲田大――の3選手も在学中にここで技術を磨いた。内野選手は「何本も、もがく練習が多かった」と振り返る。「もがく」とは自転車用語で「全力でペダルをこぐ」という意味だ。

 バイクに乗って誘導役を務めるのは、同高OBの元競輪選手で福岡県自転車競技連盟理事長の平田崇昭さん(58)。バイクが風の抵抗を抑え「自分の限界以上のスピードを体感し、脚に覚えさせる」効果があるといい、10年ほど前から続ける。最高時速は男子で80キロ、女子で70キロに達する。

 日常的に競輪場で練習できる環境がある高校は珍しく、野田豊監督(44)は「(路上と違い)自動車がいないので安全でタイム計測もできる。大学進学後、この環境が恵まれていることに気付く子もいる」。

競輪界のレジェンドもエール

中野浩一さん=日本自転車競技連盟提供
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 同部は旧久留米工高時代の1974年にできた自転車競技同好会が前身だ。初代監督、手島又喜(またき)さん(83)によると、自身が監督を務めた時代に全国高校総体の学校対抗で総合初優勝。久留米競輪場をホームバンクに当時現役だった同市出身の中野浩一さん(68)に短距離練習のアドバイスをもらったこともあるという。発足50年の節目で初めての五輪選手誕生に、手島さんは「夢がかなった」と感慨深げだ。今年の全国高校総体に出場した3年の佐々木なつみさん(17)も年齢の近い池田選手の名前を挙げて「刺激になる。同じ舞台に立ちたい」と話す。

 内野、池田両選手が高校で競技を始めた当初から見守ってきた平田さんは「最高の舞台で最高の結果を出し、最高の笑顔で帰ってきてほしい。競技人口が少ないスポーツなので、五輪で興味を持って始める選手が出てほしい」と期待する。

 県内からは日本競輪発祥の地・北九州市が出身地の垣田真穂選手(19)=早稲田大=も出場する。

 競輪界の“レジェンド”中野さんは現在、日本自転車競技連盟の選手強化スーパーバイザーを務め、「地方で頑張ってきた後輩たちの中から五輪に出る選手が出てきたのはうれしい」と同郷の後輩たちの飛躍を喜ぶ。「才能があっても途中で苦しくなったり嫌になったりすることがあり、指導者の熱意が大事になる」と語る中野さんは、共に競輪選手で活躍した平田さんら地元の指導者が重要な役割を果たしたとみる。

 中野さんは選手らに「持っている力を全部出し切ってほしい」とエール。五輪の自転車競技のテレビ中継では自身が解説を務める予定といい「解説者を絶叫させるようなレースを見せてほしい」と期待を込めた。【谷由美子、平川昌範】

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