出発式で保護者らの記念撮影に収まるツアー参加の中高生たち=岡山県備前市役所で2024年8月4日、石川勝己撮影

 岡山県備前市が市出身の山本由伸投手(25)が所属する米大リーグ・ドジャースの本拠地の野球観戦に中高生を招待するツアー(3泊5日)の出発式が4日、同市役所であり、前半の148人がロサンゼルスに向かった。後半の50人は今月22日に出発する。市費投入に疑問の声が寄せられたが、夏休みの中高生の夢を育むツアーがスタートした。

 山本投手が今シーズン、プロ野球・オリックスからドジャースに移籍したのを受け、吉村武司市長が2月、「子どもたちに夢を持たせたい」と、市内の中高生200人を対象に応援ツアーを実施すると表明。1人当たり30万円を助成する予算が組まれた。

 野球の応援ツアーに税金を使うことについて、市議会では賛否が分かれた。一部の議員から「経済的に苦しく自己負担できない家庭の子は参加できない」との指摘があると、市は助成額を1人当たり60万円に倍増し、自己負担なしにした。その結果、事業費は随行する市職員16人の分も含め約1億3000万円となった。財源はふるさと納税やクラウドファンディングなどの寄付で賄うという。

 ツアーの是非を問う声は議会だけでなく市民の間からも起きた。7月に市民22人が「一部の子どもを対象にしたツアーは不公平」「物価高の中、生活や福祉に税金を回すべきだ」などとしてツアー中止を求め住民監査請求した。請求は却下されたが、請求人の男性は「市民が生活に苦しむ中、適正な予算執行とはいえない」と批判する。

山本由伸投手の母校、伊部小学校に掲げられている横断幕=岡山県備前市で2024年3月13日、石川勝己撮影

 市内の中高生は約1200人。ツアーには299人が応募し、抽選で200人が選ばれた。市はツアーの名称を「アメリカの歴史・伝統・文化を体験するツアー」とし、応援のニュアンスを薄めた。

 前半組はドジャーススタジアムでフィリーズ戦の2試合を観戦するほか、全米日系人博物館や岡山の衣料品メーカーの現地工場などを見学する。山本投手は現在、負傷者リストに入っている。

 4日、備前市役所で出発式があり、ツアー団長の藤田政宣・副市長が「アメリカの社会や文化にじかに触れる貴重な体験を人生の糧にして」とあいさつ。参加者を代表して高校2年の幡上和奏さん(16)は「外国語や異文化に興味があり、私にとってツアーは意義深いものになると思う。楽しい思い出にしたい」と述べた。

 オリックスファンという中学1年、吉田龍心さん(13)は「抽選に当たってすごくうれしい。山本投手はけがで出場できなく残念だけど、大谷翔平選手の打撃が楽しみ」と笑顔だった。中学3年の娘を見送りにきた会社員、吉永紗代さん(39)は「子どもが貴重な経験をできる良い機会だが、市民の生活支援になる税金の使い方をすべきだとの声もあり複雑な心境だ」と話した。【石川勝己】

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