パリ・オリンピックのスポーツクライミングは8月5~10日に競技が実施される。日本からは男子の楢崎(ならさき)智亜(ともあ)選手(28)▽安楽宙斗(そらと)選手(17)=JSOL、女子の野中生萌(みほう)選手(27)▽森秋彩(あい)選手(20)=茨城県山岳連盟=の計4人が出場する。
日本勢の2大会連続のメダル獲得はなるのか。選手や関係者に可能性を聞いた。
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スポーツクライミングは、
①純粋に登る速さを競う「スピード」
②高さ4~5メートルの壁にある四つの課題(限定された突起物を登るコース)の完登数を争う「ボルダー」(旧ボルダリング)
③ロープをかけながら高さ12メートル以上の壁を登る「リード」
――の三つで構成される。
前回2021年の東京五輪では①~③を合わせた複合の1種目で争われ、女子では野中選手が銀メダルに、引退した野口啓代(あきよ)さん(35)が銅メダルに輝いた。男子は楢崎選手の4位が最高でメダル獲得はならなかった。
パリ五輪では①のスピードと、②と③の複合の2種目に分けられた。スピードに日本勢の出場はなく、4選手は複合で争う。
男子は混戦必至
混戦模様の複合男子だが、日本勢2選手はメダル有望株だ。
楢崎選手は東京五輪に続いての2大会連続出場となる。23年8月にスイスであった世界選手権で3位に入り、早期に五輪出場を決め、本番に向けて練習を積んできた。
東京五輪ではメダル獲得を期待されながら、スピード競技でミスが出て惜しくも4位となった。パリに向けては苦手意識のあるリードの練習に励み、「借りを返したい」と意気込む。
日本山岳・スポーツクライミング協会普及強化委員長で、楢崎選手の指導にも関わる宮澤克明さん(39)は「東京の経験で精神的にも成長し、粘り強くなった」と期待する。
新鋭の安楽選手は23年のワールドカップ(W杯)でボルダーとリード両方で総合優勝を果たし、一躍メダル候補に躍り出た。持ちにくいホールド(突起物)でも落ちずに持ち続ける手の保持力もありながら、力だけに頼らないバランスのいい登り方もでき、急激に成長してきた。「大会本番に強い」と言われる精神力も併せ持つ。
そうした日本勢の手ごわいライバルとみられるのが、東京五輪で銅メダルのヤコプ・シューベルト選手(33)=オーストリア=だ。07年からW杯の舞台に立ち続けるベテランだが身体的な強さや持久力を維持しており、楢崎選手も「金メダルに一番近い」と警戒する。
宮澤さんは他にも、しなやかな登りと評される李度炫(イ・ドヒョン)選手(21)=韓国、力強さが持ち味のコリン・ダフィー選手(20)=米国=らの名を有力選手として挙げる。英国のトビー・ロバーツ選手(19)も急成長株として注目され、若手の台頭が目立つ。
五輪出場を争った楢崎選手の弟、明智(めいち)選手(25)=日新火災=は「智くん(兄)やヤコプといったベテラン勢に、若手が挑む構図で、非常に楽しみな大会」と話す。
「1強」に挑む女子
一方の女子では、東京五輪で金メダルに輝いた「女王」ヤンヤ・ガルンブレト選手(25)=スロベニア=が強いともっぱらの評判だ。東京五輪後に休養していた期間もあったが、23年8月の世界選手権の複合で優勝し、今回も順調な仕上がりを見せている。
今回五輪に初出場する森選手は、その23年の世界選手権のリードでガルンブレト選手に勝ち、リードで日本女子として初優勝した。同じ茨城県出身で仲の良い野口さんも「リードの実力は世界一」と太鼓判を押す。
ずっと登り続けられる持久力は男子のトップ選手でもかなわない。身長154センチという小柄な体格で、ボルダーで距離のある課題が出てくると苦戦しがちだ。そうした弱点を克服しながら、優勝争いを目指す。
今年6月にブダペストであった五輪予選を勝ち抜いて出場を決めたのは野中選手だ。野中選手の指導にも関わってきた宮澤さんは「武器だった身体的な強さに加え、テクニックもうまく混ぜ合わせてくるようになった」と評価。「(五輪)直前まで戦ってきた分、勢いがある。十分メダルを狙える位置にいる」と話す。
他にオーストリアのジェシカ・ピルツ選手(27)、米国のナタリア・グロスマン選手(23)らもメダル候補として挙げられるが、「タイプのそれぞれ違う日本選手2人の活躍を見てほしい」と宮澤さん。持久力のある森選手と、パワーのある野中選手の登りに期待だ。【平塚雄太】
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