体操男子団体決勝を制して喜ぶ日本代表の選手たち=ベルシー・アリーナで2024年7月29日、玉城達郎撮影

パリ・オリンピック 体操男子団体総合決勝(29日、ベルシー・アリーナ)

日本=金メダル

 体操ニッポンの演技は世界一美しいと評される。パリ五輪に挑んだ5人が求めたのは、伝統である美しい演技にさらに磨きをかけることだった。

 きっかけは、ほんの少しの着地の差で味わった悔しさにある。2021年、自国開催の東京五輪。日本は前半3種目を終えた時点で2位と想定通りの位置につけたが、後半種目で着地や姿勢に小さなミスが生まれた。優勝したロシア・オリンピック委員会(ROC)とは、わずか0・103点差の銀メダル。手足を伸ばしきれれば、着地で1歩動かなければ――。その差はメダルの色の違いとなって表れた。

体操男子団体決勝、床運動を終え拳を突き上げる橋本大輝=ベルシー・アリーナで2024年7月29日、玉城達郎撮影

 立ち返ったのは、体操の原点である「止める」技術だ。エース橋本大輝選手(22)=セントラルスポーツ=の言葉を借りれば、寸分の狂いもない完璧な着地は「体操選手の一種の共通理念」。04年アテネ五輪の冨田洋之さん、16年リオデジャネイロ五輪の内村航平さん。エースと呼ばれた偉大な先輩たちは完璧な着地にこだわり、日本に金メダルの栄光をもたらしてきた。とりわけ、冨田さんが最終種目の鉄棒でピタリと止めた着地は語り草となってきた。

 道を究める過程は地道な作業の連続。団体種目でありながら、一つ一つの局面を見れば、それぞれの選手がどこまで徹しきれるかが問われる。実施競技のほか、筋力や柔軟性などそれぞれの持ち味が異なる中でも、着地だけはチーム全員で取り組めると考えた。

体操男子団体決勝、岡慎之助の床運動=ベルシー・アリーナで2024年7月29日、玉城達郎撮影

 代表合宿などでは日々の練習から一つの演技、一回の着地など細部にこだわり、互いに指摘し合った。五輪初出場のホープ岡慎之助選手(20)=徳洲会=は「パリでは最後の決めきる力が必要になる。全員で高め合えている」と話す。

 当たり前のことを繰り返し、積み重ねる。一人では根負けしそうな練習も、気概に満ちた5人だから耐えられる。絆と信頼感は日増しに強くなった。

 チームスローガンには「Make New History!(新たな歴史を作ろう)」を掲げた。東京大会に続いて五輪で主将を担う萱和磨選手(27)=セントラルスポーツ=は「新しい歴史、新しいチームを作ろうと皆で話して決めた。皆が同じ方向に向いている」と語った。

 大会前、団体総合の展望について話題に上がったことがあった。つり輪を得意とする中国に途中先行されても、最後は得意の鉄棒で日本が巻き返す――。それを聞いた橋本選手は小さく笑い、直後に威勢よく言った。

 「僕、データが苦手なんですよ。得点に執着しすぎると、自分たちが描いたものより下の時に嫌じゃないですか。この5人なら、目標数値を全部超えてやるって思うくらいの気持ちで僕はやっているので」

 金メダルを予感させたエースの笑み。究極の美という理想のもと、体操ニッポンの演技は芸術の都パリで花開いた。【角田直哉】

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