スケートボード女子ストリート予選、2回目のランを終えて笑顔を見せる吉沢恋=コンコルド広場で2024年7月28日、中川祐一撮影

パリ・オリンピック スケートボード女子ストリート決勝(28日・コンコルド広場)

吉沢恋(ここ)選手(14歳、ACT SB STORE)=金メダル

 理想を追って金メダルだけを見据えるのか、それともまずは現実的に表彰台を狙うのか――。究極の2択にも見えたが、14歳の吉沢恋(ここ)選手(ACT SB STORE)に迷いはなかった。

 「やっぱり自分が優勝できるなら、あの技しかないと思っていた。レベルを落として『まず、これで』とかいうのはなかった」

 暫定4位で迎えたベストトリックの4回目。技の難度を落として確実に決めれば、表彰台圏内に順位を押し上げることができた。それでも吉沢選手の選択は「攻める」。2位、3位でのメダルよりも「取るなら1位。しっかりと自分がメークしたい一番難易度の高い技で」と強気だった。

 あの技とは「ビッグスピンフリップ・フロントサイド・ボードスライド」。ボード(板)を空中で縦横に複雑に回転させてレール(手すり)に飛び乗る、挑戦できる者すら限られる難しい技だ。

 確信があったわけではない。「練習の中でも決められなくて、ほぼぶっつけ本番みたいな感じになってしまった」

 小学4年の頃から取り組み始め、最初に成功したのは約1年後。難しい技ゆえに何度も空中に放り出された。恐怖心を味わい、ケガもした。それでも、練習から逃げずに、何度も繰り返す芯の強さがあった。根っからの負けず嫌い。幼い頃から取り組むトランポリンで培った体幹と空中感覚に支えられ、バランスが崩れかけても耐えられる強みがあった。

 6月のパリ五輪予選シリーズ最終戦のブダペスト大会。土壇場で切り札を成功させて優勝し、代表圏外から大逆転でパリへの切符をつかんだ。この技は自分を高みに導いてくれる存在――。だから、大舞台の勝負どころでも最後はビッグスピンフリップに懸けると決めていた。

 吉沢選手は覚悟を決めた。勢いよく地面を蹴って滑り出した。ふわりと空中に舞い、ボードを複雑に回転させてレールの上に降り立つ。膝を曲げ、腰をグッと沈めて衝撃に耐えた。

 両手を広げ天を仰ぐ小さな背中に降り注ぐ、どよめきと歓声、熱狂。ビジョンには96・49点と表示された。100点満点に近い、圧巻の数字だった。

 「やっぱりビッグスピンフリップは自分を1位にさせてくれる技だった」

 自分の歩みを信じた吉沢選手に、勝利の女神がほほえんだ。【パリ角田直哉】

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