全国高校野球選手権東東京大会は29日、神宮球場での決勝戦で、関東一が帝京に8-5で勝利し、春夏連続の甲子園出場を決めた。夏大会の出場は5年ぶり9回目で、8月7日に開幕する。

優勝を決めて喜ぶ関東一の選手ら=神宮球場で

 関東一は4-4で迎えた五回、先頭の坂本慎太郎選手(2年)が左前打で出塁すると、越後駿祐選手(同)の中前適時二塁打で勝ち越し。この回に打者10人の猛攻で主導権を握った。  守備では2人のエースが躍動。先発した左腕の畠中鉄心投手(3年)は安定した制球を見せ、毎回走者を背負いながらも崩れなかった。六回から継投した坂井遼(はる)投手(同)は、140キロ台後半の直球で押し、強打の帝京を封じた。  13年ぶりの優勝を目指した帝京は、三回2死一、二塁から富浜琉心選手(同)の左越え3点本塁打などで一時逆転したが、終盤は反撃できなかった。 関東一012140000|8
帝京 004001000|5

◆「三遊間は絶対に抜かせない」春から見直した守備

 サングラスを手にベンチから飛び出す。三塁の守備について空を見上げる。太陽の位置を確認し、周囲を見渡して仲間の守備位置を頭に入れる。関東一・高橋徹平主将(3年)は、ミスをしないための基本動作を欠かさない。  同点に追い付いた直後の四回の守備。強いゴロが自分と遊撃手の間に飛んできた。「外野に抜けさせない」。思いっきり左に飛ぶと、打球はグラブにおさまった。体勢が整わないまま送球。ボールは、一塁手のグラブに収まった。思わず笑顔になった。  春のセンバツは初戦で敗れた。タイブレークの延長十一回。三塁の守備で、自身の悪送球が原因だった。憧れの甲子園に出たのに、思い出すのは、二塁に投げたはずのボールが大きくそれて、転々と転がっていく瞬間ばかりだった。  不完全燃焼の甲子園。あの試合を、チームも引きずった。練習試合でも負けが続いた。ミーティングを開いても「何であんな走塁したんだ」「どうしてあそこに投げたんだよ」。仲間たちは互いのミスをとがめ、口論を繰り返した。

適時二塁打を放つ高橋選手=神宮球場で

 ばらばらになっている仲間に何も言えなかった。厳しいことを言うのは苦手。主将としてチームをまとめられない自分に悩んだ。  あの送球エラーを乗り越えないといけない。三塁を守るのは怖かったけど、「三塁のミスは、三塁を守ってこそ取り返せる」と練習を一から見直した。捕球体勢、足さばき、位置取り…反復を繰り返した。  苦手なことに黙々と向き合う主将の背中。いつしか、仲間たちも着いてきてくれるようになった。言葉は無くても、少しずつチームがまとまった。  「甲子園に忘れ物を取りに行く」。届かなかった勝利と、聖地での校歌斉唱。「最後の夏は、まだまだ終わらせたくない」(昆野夏子)  関東一の米沢貴光監督「五回、畠中が走塁時にぶつかって倒れたとき、臨時代走を許可してくれた帝京さんに感謝する。帝京の魂を見させていただいた。選手たちは頑張ってくれた。東東京の皆さんの思いをしっかり背負って、一つずつ勝ち上がりたい」  高橋徹平主将「率直にうれしい。みんなずっと笑顔で、ベンチの雰囲気もよかったので、こういう結果になった。センバツに出場したことのプレッシャーをはねのけることができた。甲子園では勝利のために、全員野球で戦いたい」    ◇

◆西崎主将「強い帝京」の伝統を背負って…

 五回無死一塁。ショートの定位置。ゴロが来た。帝京・西崎桔平主将(3年)がいつも通りさばこうとすると、打球はイレギュラーに跳ね、つかみ損なった。そこから連打で勝ち越された。

関東一に敗れ、泣き崩れる帝京の西崎選手

 ミスをして落ち込む姿を仲間に見せてしまった。「もっと強い気持ちで引っ張らなきゃいけなかった」  主将就任直後の昨秋。都大会予選で敗退すると、観客席から聞こえた。「帝京も落ちたな」。唇をかんで、黙って耐えた。  先輩たちから受け継いできた「強い帝京」の伝統を途切れさせるわけにはいかない。練習で手を抜く部員は容赦なく叱った。「妥協しないでやるって決めただろ」。練習もウエートトレーニングも食事も、本気で向き合った。  敗戦後にスタンドに頭を下げると、膝から崩れ落ちた。そして空を見上げた。「この負けを忘れない。悔しい経験をした方が、絶対に強くなれる」  帝京の金田優哉監督「勝ちたかった。最終回も誰ひとり諦めていなかったし、私自身、何か起こせる自信と期待もあった。選手は頑張ってくれて強いチームになった。甲子園に立たせてあげられなかったことが心残り。手応えはあったが、届かなかった」  西崎桔平主将「伝統校で強くなくてはいけない学校だから、優勝したかった。きつい練習も全員で耐えてやってきた。試合前は緊張より楽しみが強かったが、勝てなかったことが本当に悔しい。この経験を生かして次のステップでも頑張っていきたい」 

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