第106回全国高校野球選手権群馬大会は23日は準々決勝2試合があった。過去に全国制覇経験のある前橋育英は東農大二に延長戦で逆転勝利。今年の春季県大会3位の樹徳は明和県央を破ってそれぞれ準決勝進出を決め、4強が出そろった。準決勝2試合は25日に予定されている。

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 東農大二のエース・山田琉聖(2年)は、3年生4投手の後を継いで七回からマウンドに上がった。1回戦からの3試合に先発し、2回戦ではシードの高崎商大付を相手に1失点完投。「彼なくしてはこの大会でベスト8までこられなかった」(青木一将監督)というチーム躍進の原動力は、この試合で今大会初めてリリーフに回った。

 中学時代はひじや肩を故障して、満足に試合に出られなかった。中学3年の夏ごろからは、進学も野球もできる東農大二で活躍することを見据え、体作りを始めた。たんぱく質を中心にバランスよく食べる量を増やし、ウェートトレーニングにも取り組んできた。

 持ち味は最速143キロの直球、スライダー、カーブ、チェンジアップ。七回は得点圏に走者を許しながらも無失点で切り抜けると、八回は3者連続三振を奪った。

 だが、九回につかまる。2安打で無死一、二塁。三振と右飛で2死までこぎつけたが、得意のスライダーを打たれ、3点本塁打で同点に。「勝ちを焦る気持ちが先行して、(ストライク)ゾーンで攻めてしまった」

 気持ちを切り替えて延長タイブレークに臨んだが、4点を奪われた。東農大二も、小川来皇(2年)がこの日2本目となる本塁打を放つなどして1点差に迫ったが、勝利に一歩届かなかった。

 「今思うとあの1球が大きくて……。3年生に申し訳ない」。試合後、うなだれた山田。捕手の一柳天満(3年)は、健闘をたたえるようにその肩を抱いた。「本当によく頑張ってくれて『ありがとう』と言いたい。最後の最後まで全員が頑張ってこんな試合ができたんだから悔いはない」。甲子園への夢は来年に持ち越された。(中沢絢乃)

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 明和県央のエース小路颯人(3年)は樹徳戦を強く意識していた。

 今春の県大会準々決勝で樹徳に敗れた小路颯にとって、リベンジ戦だった。中でも対抗心を燃やしていたのが、相手2年生打者の阿久津真吾だ。

 その試合、序盤は打ち合いとなり三回を終え5―5。続く四回表だった。阿久津に本塁打を浴びた。この一発が決勝点となった。「阿久津君には負けない」。大会中、何度も繰り返していた。

 「制球力には自信がある」と語る。一方で、打者の懐をえぐる内角への投球の未熟さを痛感した。配球に磨きをかけて臨んだ夏だった。

 だが、樹徳への過剰な意識が空回りした。最速は130キロ台中盤。いつもは120キロ台の投球を重ねていくが、立ち上がりから最速に近い直球で押した。「入れ込んでいる。バテるかもしれない」。そんな塩原元気監督の懸念が的中する。

 打たれてはならない安打を許した。1―2と逆転された五回。なお1死一、二塁で阿久津に打席が回り、渾身(こんしん)の低めへのスライダーを左翼にはじき返された。失点にはならなかったが満塁に。思わず天を仰ぎ、次打者に押し出し四球。自慢の制球まで狂い、3点三塁打を浴び、大差がついた。

 双子の弟悠人とともに小学校で始めた野球。中堅手の弟はダイビングキャッチを見せるなど兄をもり立てたが、失った流れは取り戻せなかった。

 兄は1年の秋から試合に出たが、弟は1年遅れてレギュラーに。「12年間、お兄ちゃんの背中を追いかけてきた。お兄ちゃんを信じて、センターからお兄ちゃんの背中を見ていた」と弟。「弟にもチームにも申し訳なくて……」と兄。悔いと涙を残し、双子で戦う最初で最後の夏が終わった。(抜井規泰)

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