(17日、第106回全国高校野球選手権東東京大会3回戦 日大豊山9―0紅葉川=7回コールド)
スコア用紙に記した安打を表す「赤い線」はたった1本だけ。「変わらないスコアだなあ。練習試合も打てなくて、今日も」。一塁側ベンチからプレーを見守る紅葉川の金成光(ひかる)記録員(3年)はスコア用紙をめくりながら、心の中でつぶやいた。
高橋勇士監督が「縁の下の力持ち」と信頼するチーフマネジャー。中学時代はソフトボール部で、捕手。3年間でやりきったから、高校時代はマネジャーになると決めていた。「マネジャーといえば野球部かなって」
一緒に入ったもう1人のマネジャーが1年秋で辞めてから、この春に3人が入ってくるまで、1人でマネジャーをやってきた。スコア付け、掃除、道具の確認、球出し、飲み物作り……。やることが多すぎて、いつも不安でいっぱい。怒られることも多くて、何度も辞めたいと思った。でも、その度に思いとどまれたのは、選手たちがいたからだ。
主将の竹田蓮(3年)にはよく相談に乗ってもらった。お互い、顔を合わせれば「どう?」と。でも、大会が始まると、みんな集中していて、こっちから話しかけるのは気が引けた。
日大豊山に9点差をつけられた七回裏の攻撃。2死、走者なし。野球のスコアをつけるのは、これが最後だろうな――。ペンを持つ手に、ぐっと力が入る。代打の選手が見逃し三振。一気に涙があふれた。「紅葉川で、いいチームで、マネジャーをさせてもらったな」
試合後、スタンドにあいさつをして、ベンチに戻ってきた竹田と目が合った。「おつかれさま」。会話はないけれど、会釈で応えた。
昨夏も最後の試合は神宮。同じ神宮で、同じコールド負けだったけれど、景色はまったく違って見えた。「やっぱり自分たちの代だから。今年は感謝の気持ちが大きいかな」。バインダーに挟んだ高校最後のスコア用紙は、汗でふやけていた。=神宮(野田枝里子)
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