(12日、第106回全国高校野球選手権埼玉大会1回戦 白岡0―7浦和実)
降りしきる雨の中、背番号1をつけた三塁コーチが声を張り上げる。
「やってきたこと!やってきたこと!」
白岡の主将でエース、納見柊羽(3年)の姿はこの日のマウンドにはなかった。
夏の大会を目前に控えた6月30日の練習試合。一塁にヘッドスライディングしたときにベースに左手を強打し、手の甲と中指を4カ所骨折した。全治1カ月だった。
そのまま埼玉大会に出ようと考えたが、後遺症の可能性を指摘され、出場を諦めた。想定もしていなかった現実に、涙が止まらなかった。
チームメートにLINEで伝えると、同級生の晴山大輝(3年)からこんな言葉が返ってきた。
「決勝まで連れていけば治せるんだろ。俺らが勝ってお前を試合に出させる」
金子章太郎監督は、納見をベンチ入りメンバーに残し、三塁コーチを任せた。率先して練習し、チームを引っ張ってきたことが理由だ。
板谷翔吾(3年)には、納見の悔しさが誰よりもわかった。3月中旬、練習中にボールが当たって右のふくらはぎを肉離れし、春の大会に出られなかった。「春の大会はまだ次があるけど、夏は高校野球が終わってしまう。代打でもいいから納見が出る機会を与えたかった」。チームの全安打となる2安打を放ち、主将のひたむきな姿に応えた。
チームは勝てなかったが、納見はすがすがしい表情だった。「一生懸命プレーするメンバーの姿を見て、一緒に打席に立てた。自分も一緒に試合に出られました」(宮島昌英)
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