六回、連打を浴びて2死二、三塁。マウンド上で調布南の松倉修人(3年)は、バックで守る「同僚」たちを信じた。

 調布南はチームを会社に見立てて運営している。その名も調布南ベースボールクラブの頭文字から「株式会社CMBC」。松倉は試合中、ベンチ内で「戦略部員」たちが何度も作戦を練っているのを見ていた。「相手が右打者なら内野手は三塁側へ」。5球目、甘めの直球を鋭くはじき返されたが、狙い通り、ライナーは遊撃手のグラブに収まった。

 CMBCは4月、加藤洋章(ひろあき)監督の発案で発足した。「広報」「人事」「戦略」などの各部に仕事を割り振り、部長は3年生が務める。社会とのつながりを生徒に実感してもらいたい――。そんな狙いがあった。

 主将の松倉は、各部を束ねる「本部長」。発足前、「主将でエース」の重圧に悩んでいた。投手陣の練習を見る合間にチーム全体に視線をやると、集中力の欠けた選手が目につく。練習試合でも、相手チームと比べて、動きがどこか指示待ち。投手陣も、チーム全体も「全部見なきゃ」と気負っていた。

 それが、会社制になると、各部が責任を持って行動するようになった。部長を通じて指示もよく通る。すると、試合中の動きも機敏になり、互いの信頼感も増した。

 この日もそうだ。試合前のミーティングで、「社内交流部長」が「スタンドのスポンサー(応援団)に喜んでもらう。これが自分たちの仕事だぞ」とはっぱをかけると、みんなの士気が高まった。戦略部も頼もしい。松倉は安心してマウンドに立てた。

 次戦の相手は、一昨年の選抜大会4強で、今大会もシード校の国学院久我山。松倉は「『大企業』との戦い、まずは戦い抜く」と言った後、笑った。「『下克上』のチャンス。これって会社の名前を知ってもらうには、うってつけですよね」=多摩市一本杉(西田有里)

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