(9日、第106回全国高校野球選手権長野大会2回戦 上田染谷丘27―0下高井農林)

 完敗だった。だが、下高井農林の主将、宮島光風(みつかぜ)(3年)は「悔いはないです」とすがすがしい表情だった。

 豪雪地帯の木島平村にある同校は、全校生徒約150人。三井雅博監督は「地方の小さな学校では、野球をやるだけの人数を集めるだけでとても大変」と話す。

 小学校で野球を始めた宮島は「高校入学前は、たくさん部員がいるものだと思っていた」という。入ってみると同学年で入部希望者は2人だけ。1人は途中でやめた。昨夏、1学年上の先輩が引退し、部員は自分1人になった。

 練習をすることすら難しい。三井監督や友人が手伝いに来られないときには、ネットを相手に投げ込んだり、ティーバッティングをしたりした。厳しい冬も、1人で黙々と練習した。

 最後の夏、どうしても単独チームで出たかった。春の新1年生への部活動紹介の場で、マイクで「出場するために1年生の力が必要です」と呼びかけた。35人の男子の新入生のうち7人が入部してくれた。バスケットボール、バドミントン、スキーなどスポーツ経験がある同学年の友人にも「助っ人」を頼み、出場にこぎ着けた。

 先発して108球を投げた。打ち取った当たりでも、なかなかアウトを取れない苦しい試合だった。だが、一つのアウトを取る度に、ベンチから明るい声が飛び交った。打撃では、第2打席、3度目の夏で初めての安打を放った。三井監督は「頑張りは報われるんだと、あのヒットを見て感じた」。チームで唯一の安打になった。

 宮島は試合後、この1年を振り返った。「自分のわがままのためにたくさんの人が集まってくれて、4月以降は大人数で練習もできて楽しかった。感謝しかありません」(菅沼遼)

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