(8日、第106回全国高校野球選手権東東京大会2回戦 日体大荏原12―3田園調布 七回コールド)

 田園調布の背番号9、吉野彰(3年)は試合中、出番が来るのを今か今かと待っていた。チームの3年生は6人。4人はスタメンで出場し、1人は四回からマウンドへ。試合に出ていない3年生は自分だけだったからだ。

 五回裏、ベンチ裏で捕球の練習をしているとき、中島秀馬監督から「ライトで行くぞ」と声をかけられた。右翼へ全力疾走し、守備についた。「どんな打球でも全部捕ってやるつもりだった」

 高1の秋まではバスケ部。練習についていけずに退部したとき、仲間から誘われたのが野球部だった。当時の部員は6人ほど。初心者の自分でも活躍する機会がありそうだと、入部を決めた。

 初めて持つバットは重く、手にすぐまめができた。守備では「カバーしろ」と言われても、どこに走ればいいか分からなかった。

 それでも、捕れなかった飛球が捕れるようになったり、空振りしていた球にバットが当たるようになったり。「成長を感じられるのが楽しかった」。右翼手として試合に出られるようにもなった。

 だが、今春、6人の1年生が入部してくると状況が変わった。1年生なのに打撃も守備も自分よりうまかった。「このままだと最後の夏はレギュラーを奪われる」

 予感通り、夏が近づくにつれ、1年生が試合で右翼の守備につくことが増えた。「自分の出番はもうないかもな」と思うと、悔しかった。

 でも、腐らず率先して声出しや走塁コーチをした。活躍できそうという理由で入った野球部だったが、いつの間にか、チームとして「勝ちたい」という思いに変わっていたからだ。

 8日、最後の夏の舞台で訪れたチャンス。右翼では軽快な前進でゴロを捕球し、六回の打席では三振したがフルスイングを貫いた。

 「やっぱり試合に出るのは気持ちいいし、楽しかった。負けたけど最後は3年生で頑張ることができたのが大きな財産です」。すがすがしい表情で球場を後にした。=大田(吉村駿)

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