長野県飯田市にある飯田高校野球部には、絶対的な存在感を見せる2人の3年生部員がいる。

 6月中旬、守備練習の合間に力石麻央さんと杉山佳穂さんがグラウンド整備をしていた。2人はマネジャーを務めている。マネジャーが練習のタイムキーパーやノッカーへのボールの受け渡しをする光景はよく目にするが、グラウンド整備までしているチームは珍しい。

 「自分たちの代になるまで、いかにもマネジャーらしい仕事が多かったけど、アイデアを出して増やしていきました」と杉山さんは話す。力石さんは「できるだけ、選手と一緒の立場に立ちたいという思いが強かったから」と付け加えた。

選手は「マネさん愛してるの会」を結成

 打撃練習のトス投げは当たり前。練習試合などで選手たちが活躍した際の動画を編集し、試合前に共有したり、成績ランキングを作ったり、対戦相手の打球傾向を分析したり……。進学校において勉学もおろそかにできないため、テスト前の「勉強会」も企画してきた。

 3年生のLINEグループを通じて「24時間体制」での相談受け付けまでしている。「マネさん愛してるの会」というグループ名からもその慕われぶりがわかる。

 2人は口をそろえて言う。「ただただ、野球が楽しくて」「学校よりも、野球だよね」

 力石さんは選手からの相談をじっくりと聞く、落ち着いたタイプ。杉山さんは選手にハッキリと指摘し、明るさで引っ張る性格だ。

新チームになって感じた課題

 きょうだいが野球をしていた縁で、2人は野球部に入ったのだという。昨秋に代替わりすると、2人は新チームに課題を感じるようになった。今の3年生たちが後輩に対し、思っていることや、時には必要なはずの厳しい指摘を言わないような気がしたのだ。

 「2、3年生の間に壁とか、遠慮があるのかな、と思った」と杉山さんは振り返る。そこで2人は昨年12月、熊谷匡通監督と相談し、ある催しを企画した。

 オフの日に部員全員で早朝からバレーボール大会をし、焼き肉を食べ、ボウリング大会で締めるという、夕方までの一大イベント。その名も「お楽しみ会」だ。

 熊谷監督が車に部員を乗せ、2人の指示通りに運転して店を回った。「企画、立案は丸投げしていたんですけど、会の運営や予約も全て2人がやってくれた」と目を細める。これ以降、2、3年生の絆が深まり、3年生同士の意見交換も活発になった。2人が学年間のつなぎ役として動くようにもなった。

笑顔に支えられ、「1勝が最低ライン」

 永井蒼大主将(3年)は2人について「お願いを一つしたら、10個返ってくる」と仕事ぶりに感心する。

 悩んだ時も2人が支えになってくれた。昨秋以降、「自分のことで手いっぱい」なのに、主将としてチーム全体を見渡さなければならない立場になった。2人は何度も相談にのってくれた。

 気負っていた際、力石さんはその気持ちに共感してくれた。杉山さんからは「気楽にプレーしてみたら?」と言われ、吹っ切ることができた。永井さんは「2人がいないとチームにならなかった。一緒に戦ってくれているなと思います」。

 熊谷監督は2人について、「しんどい顔を絶対見せない。うちの『ヒエラルキー(階層)』では一番上です」と笑う。「選手と一緒に戦い、勝利を分かち合いたいと思っていると思う」と話し、「欠かせない存在の2人に勝利を贈れたら」と意気込む。

 大会では2人にそれぞれ記録員をお願いするつもりだ。1試合にベンチ入りできる記録員は1人だけ。「最後の夏で、1勝は最低ライン」。8日に迎える初戦を前に選手たちは、そう心に誓っている。(高億翔)

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