「お疲れ様です。きょうはどんな一日でしたか?」。
こんなLINEメッセージが、夜、自宅でくつろぐ野球部員のスマホに届く。
茨城県立土浦二高の野球部は、生成AIを用いたスマホアプリを練習に導入している。質問すると、選手一人ひとりの課題に合わせた練習法を教えてくれる。
「技術が向上した」「練習の振り返りに役立つ」。選手たちからの評判は上々だ。
導入した理由は…
メッセージは練習を終えた午後8時半ごろに届く。投球、守備、打撃…選手が自分が抱える課題を打ち込むと、チャットボットが解決策を提示してくれる。
発案したのは、相良真博監督(39)だ。
導入前は月に1回、選手全員と10分間、個別に面談して練習方法の改善を提案していた。しかし、貴重な1日の練習が面談で終わってしまう。新しい技術を活用して選手の相談にこたえられる仕組みを作れないか――。
今年2月、慶応義塾大生の岩井進悟さん(21)との出会いで道が開けた。
岩井さんは仲間と一般社団法人「マイパレ」を立ち上げ、高校生の探究学習を手伝うアプリの開発・普及に取り組む。
自身も巣鴨高校で球児だった岩井さんが「選手の練習環境向上につながれば」と協力を快諾。4月から実証実験でアプリを採り入れた。全部員26人がスマホで利用できる。
主将で3年生の鈴木晴人選手(17)は、制球難が課題だったが、下半身の使い方をアプリから細かく指示された。フォームを見直し、制球が定まるようになった。
以前は不調の時のストライク率は55%ぐらいだったが、最近は安定して65%以上を維持している。6月上旬にあった練習試合では70%に達した。
「方向性を着実に確かめながら練習した結果が表れた」と手応えを語る。技術面だけでなくチームワークの盛り上げ方なども提案してくれる。
「疲れたらやめてもOK」
チャットで細かく質問されるケースもあるが、すべてに応答する必要はない。6月13日、岩井さんは選手たちに「友達とのやりとりとは違う。逆質問してもいいし、疲れたらやめてもらって構わない」と助言していた。
県立高校の部活動は原則、平日2時間、休日4時間が上限。相良監督は「限られた練習時間を有効活用するためには、1対1でいつでも、すぐそばで助言してくれる『コーチ』の存在は大きい」と語る。
仮に自らが異動して顧問が野球経験者でなくなった場合も、選手たちがスマホ片手に自分たちで考えて野球をする姿が理想だ。
土浦二高は茨城大会の組み合わせ抽選会で、7月6日の開幕試合を引き当てた。
もたらされた偶然に、生成AIとの応答で培った力をどういかすか。一つの見どころになりそうだ。(鹿野幹男)
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