【日本-イングランド】試合前、イングランド代表のウオーミングアップを見る日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ=国立競技場で2024年6月22日、藤井達也撮影

 2年前まで率いていたチームと対戦する心境はいかほどか。「奇妙な感触だった」。22日にテストマッチ、リポビタンDチャレンジカップでイングランド代表と対戦したラグビー日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC、64歳)は、独特な表現で語った。その意味とは。

 ジョーンズHCは、2015年ワールドカップ(W杯)イングランド大会で南アフリカを破るなど日本を歴史的3勝に導き、大会後にイングランドでは初となる「外国人監督」に就いた。すると破竹の17連勝で欧州6カ国対抗を2連覇し、19年W杯日本大会では準優勝に導いた。しかし、結果が伴わなくなると強気な発言やストイックな姿勢がメディアやファンらを中心に物議を醸した。積極的に起用した若手の成長など明るい材料もあったが、W杯前年となる22年にテストマッチでの負けが込み、同年12月に電撃解任された。

偶然の巡り合わせ

【日本-イングランド】試合前にイングランドの選手と笑顔で話す日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ=国立競技場で2024年6月22日、長澤凜太郎撮影

 23年W杯フランス大会はオーストラリアの監督として戦い、今年1月から15年以来9年ぶりに日本を率いることになった。2度目となった「エディー・ジャパン」の初陣の相手が約7年率いたイングランドだった。今回のテストマッチ開催は23年6月に決定しており、まさに偶然の巡り合わせだった。

 試合後の記者会見。縁深いイングランドと対戦した感想を問われると、ジョーンズHCの表情が少しだけ和らいだ。

 「国歌斉唱の時にジャパン側にいるのは少し奇妙な気がした。自分がコーチングした国と対戦する時は、いつもどこか奇妙というか、とても興味深いような感触になる。知っている選手や自ら育成してきた若手も多い。そうした選手にはもちろん頑張ってほしいと思うが、自分のチームと対戦する時にはあまり頑張りすぎてほしくない(笑い)」

【イングランドーオーストラリア】2019年のラグビーW杯日本大会でイングランド代表を指揮したエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(中央)=昭和電工ドーム大分で2019年10月19日、徳野仁子撮影

 ピッチの裏側では、かつてともに戦った「古巣」のスタッフや選手たちとつかの間の交流を楽しみ、笑顔を見せる姿もあった。自らの後任となったイングランドのスティーブ・ボースウィック監督は、ジョーンズHCが最初に日本代表を率いていた頃とイングランド代表監督だった時代にいずれもコーチだった。そんな彼をジョーンズHCは「プレッシャーに耐え、非常にいい仕事をしている」と評す。ボースウィック監督も「エディーが日本を大きく変革した。今後もインパクトを与えると思う」とエールを送った。

発掘した新星の活躍

 ジョーンズHCがイングランド代表監督の頃に発掘した新星の活躍もあった。ひときわ輝いたのが若き司令塔、マーカス・スミス選手だ。前半24分に自ら防御ラインのすきを突いて約40メートルを独走。前半終了間際には相手陣中央付近でボールを受けて、右の大外で待つ仲間に鮮やかなキックパスを通した。かつての指揮官を前に自在に攻撃をけん引し、「誇りを持ってプレーできた」と胸を張った。フッカーで主将のジェーミー・ジョージ選手も「エディーのことはもちろんよく知っているし、一人のコーチとしてリスペクトしている」と言う。

 「我々は日本のラグビーを変えなければならないという強い信条の下、今回のラグビーをスタートしている」とジョーンズHC。日本代表の立て直しに向けて、より速さを追求した「超速ラグビー」を旗印に指導がスタートしたが、試合は17―52の完敗だった。しかし、改革への道のりは始まったばかりだ。

 7月にはジョージア、イタリアとのテストマッチなどが続く。「結果は残念だが、やりたいプレースタイルを体現している局面がたくさんあった。4年間のプロジェクトのまだ10日目だと考えると、非常に良い方向にいっている」。古巣との初陣で味わった奇妙な感触には、懐かしさと悔しさ、さらに強くなれる期待感が詰まっているようだった。【角田直哉】

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