「歩くルールブック」として、仲間から頼りにされている。八戸工(青森県八戸市)の大鹿糠悠里(おおかぬかゆうり)さん(3年)は、選手でありながら、審判の資格を持っているからだ。練習試合で球審や塁審を任され、正確なジャッジで一目置かれている。

 「懸命なプレーを、一番近くで見ることができる。正直に言うと、選手で野球をするより、審判のほうが楽しいです」

 あこがれは、小学生のときに芽生えた。張りのある声、きびきびした動き、毅然(きぜん)とした判定。試合で間近に見た審判の姿が目に焼きついた。

 6年生になって「野球審判員マニュアル」を手に取り、中学1年で「公認野球規則」を読み込んだ。プロテクターやマスクの用具一式は、お年玉をはたいて10万円で買った。

 練習試合で一塁の塁審を頼まれ、高校に入ってからは球審も任されるほどに。今年3月に講習を受け、公認審判員3級の資格を取った。

 仲間からの信頼を高めたのは、5月の練習試合。三塁コーチをしていた無死一塁の場面で、八戸工は盗塁を試みた。打者は空振り三振。直後にバランスを崩し、本塁に倒れそうになった。

 球審は守備妨害を宣告。走者は二塁に達していたが、併殺とした。選手たちは「1死一塁から始めるのでは」と思い違え、戸惑った表情になった。

 ベンチの士気を落とさないように、コーチスボックスから伝えた。「大丈夫。ルールに合っているよ」。全員が納得した。「あいつが言うんだから間違いない」。チームはすぐに気持ちを切り替えることができた。

 ふだんも、仲間からのルールの質問に丁寧に答える。「みんなに貢献できていると思えて、うれしいです」

 試合ではベンチ入りの経験もあるが、出場の機会にはなかなか恵まれない。それでも、いや、だからこその夢がある。

 「審判として、甲子園の土を踏んでみたい」

 目標とする人は、昨夏の甲子園で決勝の球審を務めた山口智久さん。選手を励ます審判として知られる。2021年夏の甲子園で降雨コールドとなった試合では、両チームの主将に「この状態の中で、いい試合をしてくれてありがとう」と伝え、健闘をねぎらった。

 「山口さんのように、選手に寄り添う審判になりたいのです。試合で切羽詰まった状況の気持ちがわかるので、一声かけることで安心させたい」

 その第一歩を、間もなく踏み出せるかもしれない。県高校野球連盟の審判部から、秋季県大会に審判としての参加を勧められているのだ。

 「選手たちを支える審判をめざします」

 ここからだよ! 頑張っていこう――。そんなエールを送るつもりだ。(渡部耕平)

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