土が舞うダイヤモンドと雪山のゲレンデ。五城目の遊撃手、田代琉晟(りゅうせい)さん(3年)には、二つのステージがある。

 「切り替えが難しいですが、春からだんだん頭の中はグラウンドの野球になってきて、今は95%以上、野球です」

 入学後、12月から3月にかけては、スキー・フリースタイルのモーグルに競技者として挑んできた。こちらでの所属は、全国トップ級の選手も加入している「チームホットドック!」。平日は野球、週末にチームの拠点のたざわ湖スキー場(仙北市)に向かった。

 この冬は北海道・ばんけいと長野・白馬乗鞍温泉の大会でポイントを重ね、3月に全日本ジュニア選手権(富山・たいら)に初出場した。予選最下位の18位だったが、このままでは終われない気になっている。

 モーグルは雪面のコブを滑り抜ける技術やエアトリック(ジャンプしての演技)、スピードを競う。30秒前後の滑走ですべての要素が採点され、順位が出る。「1本の滑りを大切にして集中する。1球にかける打席に通じるものがあります」

 別物のようで、野球とどこかでつながるから、おもしろい。モーグルでは骨盤の上に体重を乗せる感覚でフォームを固めるという。これって野球の打撃も同じでは? ふと頭に浮かんだ。試しに意識してみると、バットにうまく力が伝わった。「歯車がガチッとはまった感じでした」

 4月、練習試合で自身初の本塁打を放った。クリーンアップとして、うれしい手応え。モーグルの冬を越えて実感した。

 競技のかけ持ちは、どちらかがおろそかになりかねない、といった声もある。だが、小学3年から続ける野球には、仲間とカバーし合って目標に向かう楽しさがある。モーグルは、自分なりにコースを攻略したあとの爽快感がたまらない。どうしても一つに絞れなかった。

 「だめだといわれたら、どうしよう」。心配しつつ牧野嘉訓監督(54)に相談すると、かけ持ちを認めてくれた。

 「モーグルを諦めさせるのは、彼にとってマイナスだったでしょう」と牧野監督。野球のオフの期間だから問題ないし、モーグルで鍛えられる体幹の強さなどは野球でも生きると考えた。

 昨年11月、チームの9人(当時)はバスケットボール部の練習にも参加した。バスケ部は5人ぎりぎりで苦労していたからだ。本格的に指導を受け、田代さんら4人は支部新人大会にも出場した。

 冬季のトレーニングは内容も単調になりがち。他競技に触れ、かえって選手たちの野球への意欲が高まったと、牧野監督には感じられたという。

 「モーグルにOKを出してくれた監督さんに感謝しています」。その恩返しをする――。また新たなモチベーションが胸にわき上がってくる夏だ。(隈部康弘)

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