「チームのために何でもします」。九産大九州の神山大周(3年)が専属スコアラーに手を上げたのは昨夏だった。
175センチ94キロ。恵まれた体格を生かした力強いスイングと、勝負強いバッティングで、小学校では主将で4番、中学でも打線の中軸を務めた。だが高校進学後の冬、けがをした足をかばいながらのトレーニングが腰のヘルニアにつながってしまったという。
療養中は臨時でスコアを書いた。「仲間に置いていかれる」「試合に出たい」「こんなはずでは」。焦りばかりが募った。
専属スコアラーになることは、公式戦出場をあきらめることを意味する。だが、腰の痛みは改善しない。神山は「何もしないでこのまま終わりたくない」と決断した。
最近、エラーを示す「E」をスコアブックに書くことが減った。同級生や後輩の成長をスコアラーとして喜ぶ。
新たに始めたのは、スコアブックの右上隅にある3行の備考欄や余白へのメモだ。
今年の春季地区大会2回戦。強豪の筑陽学園に17―0で勝った試合で、神山が気づいたのは2死から得点を追加した攻撃だった。いつもは選手の気持ちが守備に切り替わり、ベンチが静かになる場面だったはずだ。神山は余白に「ツーアウトになってもねばりがある試合は勝ち試合になる」と書いた。
メモを読んだ仲間たちの意識も変わった。スコアラーとして「選手には見えない」部分を記す自分の仕事に誇りが芽生えた。
「入部したときに思っていた自分とは違う」と神山。それでも勝利に貢献できる。福岡大会も仲間の表情や声色、相手チームの所作を見逃さない。=敬称略(太田悠斗)
ベンチの中、練習帰り、球児たちはそれぞれの理由を持ってペンを握る。彼らの手記から見える、成長をたどった。
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